「ミニアンソロジー」というほどの歌数はなく、
「レア鍋賞」ほど少なくもない……、
そんな、ちょっとした短歌コレクションです。
馬の字は馬に似て見え牛の字は牛と見え来る文字のフシギ
ルビ:文字【もんじ】
奥村晃作
文字の形はときどき何かに似て見える。逆に、何かが文字に似ていると思うこともある。
そりゃあ象形文字だから、似ていて当たり前、という場合もあるが、意味などに全く無関係に似ていると感じる場合もあって、それを歌に詠むということがけっこうある。
「無関係なものに類似点を見出して、そこになんらかの意味、情趣などを見出す」というのは、人間特有の能力であり、思考の娯楽のようなものではないだろうか。
砂浜に残る足跡 その全てがもしももしもという字に見える
土居文恵「かばん」202410
溶けだしてしまったソフトクリームは舌を@の字に動かして食う
千葉聡『微熱体』
文字盤の数字は虫に見えるけど おはようわたし おそらく朝だ
兵庫ユカ 『七月の心臓』
俵万智『かぜのてのひら』
飯田有子『林檎貫通式』
土壁の「キ」と「サ」と「キ」など月影に静かな蜥蜴写字生に似て
雨谷忠彦「かばん」200112
ルビ:文字【もんじ】
俵万智『チョコレート革命』
香川ヒサ 『テクネ―』
櫻井朋子『ねむりたりない』
前川佐美雄 『白鳳』
千葉聡「かばん」200112
井辻朱美『クラウド』
鈴木有機「かばん」200112
松木秀『色の濃い川』
杉崎恒夫『パン屋のパンセ一』
龍翔 『Delikatessen/Young,Cute』
田村元『北二十二条西七丁目』2
高柳蕗子『あたしごっこ』あいうえおごっこ
川の字の家族をつつむ梅雨ふかし水に流せぬくらしのくらし
三枝昻之 『太郎次郎の東歌』
法橋ひらく 『それはとても速くて永い』
笹原玉子『われらみな神話の住人』
俵万智『オレがマリオ』
笹原玉子『われらみな神話の住人』
戀という字を分析すれば 糸し糸しと言う心
妾という字を分析すれば 家に波風立つ女
文字を分解するなどして意味を見出し、暗記や字謎のために七五調にまとめる、ということがある。上記のようなものとしては「櫻」は「木の横の二階(二貝)の下に女かな」と覚える。(「桜」なら「木の横に三本角の女かな」と覚えればいい。)
上記の例ほど厳密ではないが、文字分解を含む歌はけっこうある。
閂の門の真ん中一の字にぶらさがってまずは懸垂
久保芳美『金襴緞子』
吉岡生夫『草食獣 第八篇』
吉岡生夫『草食獣・第四篇』
荻原裕幸『永遠よりも少し短い日常』
伊藤一彦『月の夜声』
冷タイダケノ弁当ヲ食フ 父トイフ字ヲ冠ツタヲノヲ樹ニサシタママ
小笠原和幸 『馬の骨』
九螺ささら 『神様の住所』
春日井建『井泉』
零の字が雨かんむりであることの火葬場の上へふりそそぐもの
松木秀『RERA』
大の字に一加うれば日曜にほうけ居眠る夫となるらん
小高賢『三十一文字のパレット』より
関根和美『三十一文字のパレット』より
大村陽子『砂はこぼれて』
蒔田さくら子『標のゆりの樹』
大塚寅彦『夢何有郷』
高野公彦『天平の水煙』
島本ちひろ 『あめつち分の一』
ルビ:ヽ【タネ】
千葉聡『微熱体』
夜の虹のかがやきわたる草のうへ文字に還るうつしみわれは
ルビ:夜【よ】 文字【もんじ】
水原紫苑『客人』
落語/蕎麦の殿様
■その他の文字ネタ
蟲の字がほどけてゆくまでマブシイをしばらく感じているのはいいこと
杉山モナミ 「かばん」2016・4
荻原裕幸『あるまじろん』
野田かおり 『風を待つ日の』
俵万智『サラダ記念日』
俵万智『サラダ記念日』
山田航『水に沈む羊』
ルビ:斥候【ものみ】 貌【かほ】 f【フォルテ】 凭【もた】
永井陽子『ふしぎな楽器』
穂村弘『水中翼船炎上中』
天道なお『NR』
鈴木有機「かばん」200406
杉山モナミ ブログ「b軟骨」2011/9
吉岡生夫『草食獣・第四篇』
惟任将彦 『灰色の図書館』
天道なお『NR』
岡井隆『鵞卵亭』
渡辺松男『時間の神の蝸牛』
田中富夫『曠野の柘榴』
小田桐夕『ドッグイヤー』
山階基『風にあたる』
龍翔 『Delikatessen/Young,Cute』(発行所・年月不明)
傍点:へん つくり
千葉聡『微熱体』
柴田瞳「かばん」200212
椎木英輔『らんぱんうん』
杉山モナミ 作者HP
三平忠宏『出向』
坪内稔典『豆ごはんまで』
入谷いずみ『海の人形』
伊舎堂仁『トントングラム』
大松達知『ゆりかごのうた』
美しいといふ字のかきだしはひだりうへからそれもそつとそつと
平井弘『遣らず』2021
※この歌、解釈はいろいろあると思うが、私は、うっすら人をなぶるところを連想しそうになる。「美」という字には「人」がいて、縛られているようだし、「ひだりうえからそっと」というところが、ひらがなのせいもあって、スローモーションで殴るような感じがするためだ。
■俳句川柳
俳句
雪の朝二の字二の字の下駄のあと 田捨女
さおしかのしの字に寝たる小春哉 小林一茶
「母」の字に最も近きが「舟」よ月明 折笠美秋『北里仰臥滴々/呼辭記』
靴下がくの字に吊られクリスマス 阿波野青畝(出典調査中)
川柳
子が出来て川の字形に寝る夫婦 古川柳
鬱の字を縞馬のむれ通過中 倉本朝世