2024年4月7日日曜日

随時更新 ちょびコレ7

 なんとなく見つけたちょっとした短歌コレクション。

ミニアンソロジーほどの歌数はない。
レア鍋賞ほど少なくもない……。
そんな感じのときここに書いておきます。


2024年4月7日 40

所属誌「かばん」が40周年をむかえるので、
「40」(四〇、四十、四拾、よんじゅう)
を含む短歌を探してみた。
 思いのほか多いので、ありがちな(たとえば「四〇歳になった感慨」みたいな)歌は少なくしました。

ことだまの80bytesは全角で40文字まで空爆無料
鈴木有機 「かばん」2003/5

真っ直ぐに尾鰭のばして浮上する鯉の仰角約四十度
杉崎恒夫

石鹸がタイルを走りト短調40番に火のつくわたし
杉崎恒夫『パン屋のパンセ』
 ※モーツァルト 交響曲第40番 ト短調 K. 550 

小工場に酸素熔接のひらめき立ち砂町四十町夜ならむとす
土屋文明『山谷集』
 ※東京都江東区に昔あった地名。今も通りの名として残っている。

ネクタイと海を間違う砂浜の平均気温四十度強
笹井宏之『ひとさらい』

少年のしぐさのように吸われゆく四十度ほど左翼を下げて
三枝昻之『農鳥』

スプーン一杯に満たざる蜜を集めたる四十日ののちに死ぬとぞ
稲葉京子『忘れずあらむ』

四十になっても抱くかと問われつつお好み焼きにタレを塗る刷毛
吉川宏志『青蝉』

四十トンあまりの鯨つぎつぎに跳びたる海はしばらくゆらぐ
秋葉四郎

満月の四十階のバーに飲む酔ってまだ飲むドライマティーニ
佐佐木幸綱

にんげんは地中せいぶつ大江戸線地下四十メートルの六本木駅
鈴木良明「詩客」2013-06-28

杉垣をあさり青菜の花をふみ松へ飛びたる四十雀二羽
正岡子規『竹の里』

死のきはの猫が嚙みたる指の傷四十日経てあはれなほりぬ
小池光『梨の花』

四十年使ひなれたる塗椀に汁盛る朝の夏至の葱の香
馬場あき子『あさげゆふげ』

事務所まで戻れば四十円安い愛のスコール駅で飲み干す
山川藍『いらっしゃい』

千葉君は四十過ぎてもときどきはT先生に怒られている
千葉聡『グラウンドを駆けるモーツァルト』

呑むための器ばかりが増えてゆく四十半ばの白い白い闇
ルビ:四十【しじふ】
大松達知『ぶどうのことば』

四十路びと面さみしらに歩みよる二月の朝の洎芙藍の花
ルビ:面【おも】 洎芙藍【さふらん】
北原白秋『桐の花』

2024年4月5日 言葉のなかのダムとダムの歌


私の短歌データベースで、何の気無しに、「ダム」という語で検索をかけたら、ばかにたくさん(63首も)出てきてしまった。
しかし、よく見ると「マダム」「ランダム」なども抽出してしまっている。

そこで、除外する語を思いつく限り入力。

マダム、ランダム、アダム、ノートルダム、ノートル・ダム、
ノストラダムス、サダム、ガンダム、ポツダム

おお、言葉のなかのダムたちよ。

こんなにいっぱい除外してようやく、「ダム」(水をせき止めるあれ)の歌だけに絞り込んだ。(21首になった。)

言葉のダムだけでなんだか満足感が大きくて失念しそうになったが、
ダムを詠み込んだ歌を少しピックアップ。


せつなさの一切を目にあらはして熊はおよぎてゐたりダム湖を
渡辺松男『牧野植物園』

太い喉が上下に動く わたしもそのダムが欲しい雨季の体に
櫻井朋子『ねむりたりない』

人去りし村にて仰ぐ上空のどこまでダムに抱かるるだらう
黒瀬珂瀾『ひかりの針がうたふ』

眼底を覗かれており隠されていたわたくしのダム湖の昏さ
遠藤由季『鳥語の文法』

あまえびの手をむしるとき左胸ふかくでダムの決壊がある
笹井宏之『ひとさらい』

この世から逃れられない 山奥のダムの底には無数の標識
伊波真人「かばん」新人特集2010/12

コロラドの生態系を変へるやうな激烈なダムは寝室にはない
岡井隆『ET』

ダムに落とした一滴の悪の味がするハーブのお茶を飲み干したあと
ルビ:
悪(を)
林和清『匿名の森』

谷と谷出会うところにダムがあり地図はみな暴かれた折り紙
西藤定『蓮池譜』

 ダムというものは、かつては陸地だったところを湖にすることがあり、人がすんでいた場所が水底に沈めていることなど、かなり詩的な刺激(歌に詠んでくださいよっていう感じの)がある。

 しかし、その誘いは、「ダム」という語に含まれているといっていいぐらいに強いから、ストレートに受けて詠むのでは、素材そのままでしかない。だから、ストレートに受けずにそれとなくイメージを活かす、的な歌がたくさんあるのだろう。

 ところで、最後の歌、読んだ途とたんに「マップまっぷたつ! 」というフレーズがうかんできちゃった。ムダ事だと思ってまた笑いそうになった。