2024年1月20日土曜日

ちょびコレ19 万華鏡

「ちょびコレ」とは、
「ミニアンソロジー」というほどの歌数はなく、
「レア鍋賞」ほど少なくもない……、
そんな、ちょっとした短歌コレクションです。

(以前は「随時更新」として、いくつかまとめていましたが、
いま、1テーマ1ページの方式に移行しています。)


万華鏡


「万華鏡」という語を含む短歌を検索してみたところ、この題材は、(今のところ)ステレオタイプなイメージが形成されていないみたいである。

 言い換えるなら、たぶんしばらくの間は、自分の発想を信じて詠めば新領域にあなたのフラッグを立てることができる可能性が高い。

 ただし、現時点では、すでに詠まれている歌はある意味とっても独自なものが多いので、偶然の類想は絶対避けたいところ。
以下の、イメージをゆさぶらずにおかない歌たちを読んでおいて損はない。


■本日のお気に入り 万華鏡と体感2首

花の破片うまれてやまぬ万華鏡のつめたい腕をつかんで生きる
井辻朱美『クラウド』2014


 万華鏡の中の美しいものを描写する歌は多いが、美を生み出し続ける万華鏡のパワーのほうを詠む歌は珍しいし、それにあやかるような表現をとっていること、それも「つめたい腕をつかんで生きる」と言ってのけている迫力は、おそらく追随をゆるさないものだと思う。
 言葉の姿構成も、生け花のようにすみずみまでしっかり意図をゆきわたらせて造形されているようだ。1字も動かせない完成度だと思う。


わたくしを万華鏡に澄ますとき一方の目は闇を見てゐる
森山緋紗「かばん」2023年12月号

 「わたくしを万華鏡に澄ます」という部分に、万華鏡とつながるような体感がある。
 この特殊な言い回しは、「『わたし』という部品をカチッとセットすることで万華鏡が完成する」というふうに、いつのまにか読者に感じとらせる。
 そして、万華鏡にセットしたとき使わないほうの目が「闇を見てゐる」というのも、「見てゐる」にあるそれとない能動性が、「気が散らぬように使わない部分の機能を停止させている」ことをそれとなく伝えてくる。
 すべての語が協力し合っている歌だと思う。

万華鏡の歌を調べているうちに、「ちょびコレ」とはいえないほど集まって、書きたいことも増えてしまったが、このままここに書いてしまおう。

■万華鏡内部の光景

夏の果て花火師たちを閉じ込めた万華鏡売る夜店をさがす
神﨑ハルミ(出典調査中)


もうこれきり動かないほどすばらしい景色を見せている万華鏡
柳谷あゆみ『ダマスカスへ行く 前・後・途中』2012

万華鏡におほき熊ん蜂閉ぢこめて見むとしたれどいまに見るなし
小池光「時のめぐりに」2004



(複眼レンズ系?)

 ※万華鏡には、内部に小さな欠片を入れるもののほか、複眼レンズを使うものがある。

万華鏡もて都市の夜みるときを曼荼羅めける極彩の満つ
大塚寅彦「詩客」2013-02-08

露店より買う万華鏡たわむれに街を破片にしてみる日暮れ
toron*『イマジナシオン』2022

ショッピング・カートに眠る子らのまなうらにバーコードの万華鏡
岡野大嗣『サイレンと犀』

覗き込む僕を模様にする君は悪夢のような万華鏡以て
Please keep me keen to kiss a knight of knowledge in a Kafkaesque Kaleidoscope.
中島裕介『Starving Stargazer』2008


(外側)

今日という日は晴れていてやさしくてどうしようもなく万華鏡の外
平井美奈子「早稲田短歌」44号



■覗く人

中腰の人々がいて口々に「はぁ」「ほぉ」漏らす万華鏡館
本多忠義『禁忌色』

たらちねの睡眠不足の母の目に吸収されてゆく万華鏡
木村友「かばん」2018/5

■その他

万華鏡みたいで人はおもしろい関わりあうと面倒だけど
法橋ひらく『それはとても速くて永い』2015

6月のきみの国には万華鏡とかありますか? 走れ! ありますよ。 
杉山モナミ 作者ブログ「b軟骨」2007/5

誰しもの心にひとつあるという万華鏡へと夕陽を落とす
五十子尚夏『The Moon Also Rises』

でも触れてあなたを噛んでわたくしを残す日の万華鏡のかたむき
立花開『ひかりを渡る舟』


うーむ、ちょびっとのつもりでしたが、
けっこういっぱいでしたね。

2024年1月20日









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