2025年3月25日火曜日

ちょびコレ37 特殊算(◯◯算)

 「ちょびコレ」とは、

「ミニアンソロジー」というほどの歌数はなく、

「レア鍋賞」ほど少なくもない……、
そんな、ちょっとした短歌コレクションです。


■特殊算

今回は、旅人算、植木算などの特殊算を詠み込んだ歌のコレクション。
調べたらけっこういろいろあった。

検索語は
流水算、鶴亀算、植木算、旅人算、仕事算、和差算、売買算
時計算、集合算、日暦算、覆面算、虫食い算
および、その仮名表記(ふくめん算など)

本日の闇鍋短歌データ 総数約131,500首
うち、特殊算名を含む歌は以下の10首でした。

【旅人算】
旅人算こころみる冬の室内に思うわたしのあしの速さを
柳谷あゆみ 『ダマスカスへ行く 前・後・途中』2012

旅人算ノートに途中まで解かれ地球のどこかが凍えておりぬ
鶴田伊津『夜のボート』2017

思い出す旅人算のたびびとは足まっすぐな男の子たち
江戸雪『椿夜』2001

【流水算】
まづ脛より青年となる少年の真夏、流水算ひややかに
塚本邦雄『綠色研究』1965

ていねいに図を描くのみの答案に流水算の舟すれちがふ
光森裕樹 『鈴を産むひばり』2010

どの場所からでも流されてしまう生活は下りの速い流水算
山下一路『スーパーアメフラシ』2017

【鶴亀算】
タートルはトータル何匹いるでしょう鶴亀算は足がいっぱい
岡田美幸『現代鳥獣戯画』2019

わからないもののひとつに鶴亀算なにことさらに脚を数える
山中もとひ 『〈理想語辞典〉』2015

【植木算】
植木算は木を描きながら解くのだと子は言う枝に葉をつけながら
広坂早苗『未明の窓』

【虫食い算】
〈虫くい算〉さわやかにわが脳葉に展がりゆける火の秋の空
永田和宏『メビウスの地平』



★俳句も発見
蝶や果つなべて旅人算の外に
ルビ:外(げ)
九堂夜想「LOTUS」(第41号)


なお、ネットで調べてみたら、トンネル算、長椅子算というのもあるようだ。

勝手に、架空の特殊算を作って一首詠む、という題詠やったらおもしろそうだなあ。
恋愛算 不倫算 風邪引き算、ダイエット算、鼻毛算、密室算、激辛算なんちゃって。

高柳蕗子 2025・3・25

2025年3月24日月曜日

ちょびコレ36 ◯、◯、◯

 「ちょびコレ」とは、

「ミニアンソロジー」というほどの歌数はなく、
「レア鍋賞」ほど少なくもない……、
そんな、ちょっとした短歌コレクションです。

◯、◯、◯……

今回は「◯、◯、◯」というような3連以上の畳み掛けを含む歌を集めてみました。

私の近現代短歌データベース「闇鍋」に本日は短歌が約13万首入っています。
うち◯、◯、◯」のような畳み掛けを含む歌は37首ほどありました。
少しピックアップします。
・「、」を挟まないで畳み掛ける例は検索しづらいため、たまたま見つけたものを拾いました。
・「◯」は1文字としますが、2文字が交じるのも一部許容しました。
・「た、た、たいへんだ」のようなものは除外しました。
順不同です。

自然がずんずん體のなかを通過する――山、山、山
ルビ:體【からだ】
前田夕暮『水源地帯』1932

この歌が、私のデータベースの中で一番古い「◯、◯、◯」の用例です。

夏、夏、夏、露西亜ざかひの黄の蕋の花じやがいもの大ぶりの雨
北原白秋『海阪』1949

壁、壁、壁しづけさまさりおさへられおさへられつつつかれてゐるも
加藤克巳『螺旋階段』

家、家、家ってなんだろう電気、ガス、水道、物が詰まって、人、家族
花山周子『林立』


前を行く首、首、首に汗は照り博労町をデモは過ぎゆく
吉川宏志『石蓮花』

先波を越ゆる後波、波、波、波、無量の波が陸に迫りく
ルビ:
先波【さきなみ 後波あとなみ
高野公彦『天平の水煙』

そとはあめ、雨、雨、氷雨、皮膚に皮膚よせて樹木は情を知りそむ
佐藤弓生『薄い街』

額縁店の壁に我、我、我、我、我、我を充てよと額のひしめく
真野少『unknown』

エスカレーターにせり上がりくる顔顔顔 朝のホームは魔術師である
杉崎恒夫『パン屋のパンセ』
この例は「、」がありませんが、同類とみなして混ぜておきます。

空、空、空 ラウインゲンの空青く午後十時半くれてゆくなり
田中徹尾『和の青空』2025

僕たちの運ぶ辞典の頁、頁、膨らみだして港が近い
千種創一『砂丘律』2015

2回しか畳み掛けてないけどなんだか3回ぶんインパクトあり。

虹、虹、虹、送電線は彼方から彼方の虹を送りつづける
ルビ:
彼方かなた
早坂類『風の吹く日にベランダにいる』

ダウンライトに後ろをさらす首、首、首、ほの白くて折れやすそうな
法橋ひらく『それはとても速くて永い』2015

シャガールの青青青瞳孔を見開いたまま一生を見た
天道なお『NR』2013

尾、頭無し、尾、頭無し、尾、頭無し、尾、頭無し、ねむい教室
加藤治郎『噴水塔』


全体として、特にコメントの必要はなさそうで、どれも一定の効果を出しているように思います。

加藤治郎の「尾、頭無し……」のように意外なものの畳み掛けがもっとあっていい、と思いました。(注文の多い読者)

今回はここまで。

「◯、◯」を探したら、「花鳩豆…」的な列挙型の畳み掛けの歌をたくさん見つけてしまいました。
すごく面白いけれど、多いので、分類しながら取捨選択するのが大変そうなので、今回は見送ります。
いつか機会があれば・・・。

高柳蕗子

2025年3月24日