ピックアップ
駆けてくる髪の速度を受けとめてわが胸青き地平をなせり
永田和宏『メビウスの地平』1975
永田和宏『メビウスの地平』1975
いにしへは鳥なりし空 胸あをく昼月つひに孵らぬを抱く
ルビ:孵【かへ】/抱【だ】
水原紫苑『びあんか』1989
水原紫苑『びあんか』1989
たった一つの希いを容れた胸蒼くかたかたと飲むアーモンド・オ・レ
東直子『春原さんのリコーダー』1996
東直子『春原さんのリコーダー』1996
ふわふわの白いサソリを逃がしやるこの青穹㝫の胸のうちから
井辻朱美『クラウド』2014
井辻朱美『クラウド』2014
群青の胸をひらいて空はあるかけがえないよさみしいことも
北山あさひ『崖にて』2014
自転車が走る不思議が降ってくるわたしの青く薄かった胸
山崎聡子『青い舌』2021
北山あさひ『崖にて』2014
自転車が走る不思議が降ってくるわたしの青く薄かった胸
山崎聡子『青い舌』2021
興味がおありでしたら、以下本編を御覧ください。
青い胸(+青い身体の部位)
「赤い顔」とか「白い目」とか、身体と色が結びつく表現があります。「赤い顔」「青い顔」、「青い目」「黒い目」「白い目」など、多くは実際にある色を言います。
が、現実にはない「青い胸」(胸青く…等も)などの表現もあり、短歌ではときどき目にします。
よし、集めてみよう。
よし、集めてみよう。
・魚などは除き、なるべく人間の身体と思われるものを選びました。
・「青」を好んで、効果的に使う作者がいます。同じ作者の歌が複数出てくるのはそのためです。
■青い胸(直接的)
駆けてくる髪の速度を受けとめてわが胸青き地平をなせり
永田和宏『メビウスの地平』1975
扇風機に青白き胸を吹かせおり去りたるものの跡形もなく
上野久雄『夕鮎』1992
いにしへは鳥なりし空 胸あをく昼月つひに孵らぬを抱く
ルビ:孵【かへ】/抱【だ】
水原紫苑『びあんか』1989
水原紫苑『びあんか』1989
たった一つの希いを容れた胸蒼くかたかたと飲むアーモンド・オ・レ
東直子『春原さんのリコーダー』1996
東直子『春原さんのリコーダー』1996
ふわふわの白いサソリを逃がしやるこの青穹㝫の胸のうちから
井辻朱美『クラウド』2014
井辻朱美『クラウド』2014
群青の胸をひらいて空はあるかけがえないよさみしいことも
北山あさひ『崖にて』2014
自転車が走る不思議が降ってくるわたしの青く薄かった胸
山崎聡子『青い舌』2021
「青い胸」って、十代のポエムっぽい純な感じだなあ、などと他人事のようにコメントしようとしたら、自分も書いていた……。
くんくんいう子犬を抱いて胸固く青くいっそう婦警たるべし
高柳蕗子『潮汐性母斑通信』2000
眼下はるか紺青のうみ騒げるはわが胸ならむ 靴紐結ぶ
福島泰樹『バリケード・一九六六年二月』1969
ねむりから醒めないロボット鋼青の胸うすぐもるように秋空
井辻朱美『クラウド』2014
鳥の見しものは見えねばただ青き海のひかりを胸に入れたり
吉川宏志『鳥の見しもの』2016
ラウル・デュフィの青い海はいま胸に沁むわが知らざりし生きるよろこび
小池光『草の庭』
取り外しできる胸なら青空にいま心ごと置き去りにする
小島なお『展開図』
胸郭に海を沈めた僕たちは息もわすれて群青のなか
入瀬翠「早稲田短歌」44号
胸郭に次の青空 手錠して凧あげている次の恋人
高柳蕗子「潮汐性母斑通信』
うら若き青八千草の胸の野は日の香さびしみ百鳥を呼ぶ
若山牧水『海の声』1908
胸のうちいちど空にしてあの青き水仙の葉をつめこみてみたし
北山あさひ『崖にて』2014
自転車が走る不思議が降ってくるわたしの青く薄かった胸
山崎聡子『青い舌』2021
「青い胸」って、十代のポエムっぽい純な感じだなあ、などと他人事のようにコメントしようとしたら、自分も書いていた……。
くんくんいう子犬を抱いて胸固く青くいっそう婦警たるべし
高柳蕗子『潮汐性母斑通信』2000
■青い胸2(間接的/青い空や海が胸に入る・同化する)
眼下はるか紺青のうみ騒げるはわが胸ならむ 靴紐結ぶ
福島泰樹『バリケード・一九六六年二月』1969
ねむりから醒めないロボット鋼青の胸うすぐもるように秋空
井辻朱美『クラウド』2014
鳥の見しものは見えねばただ青き海のひかりを胸に入れたり
吉川宏志『鳥の見しもの』2016
ラウル・デュフィの青い海はいま胸に沁むわが知らざりし生きるよろこび
小池光『草の庭』
取り外しできる胸なら青空にいま心ごと置き去りにする
小島なお『展開図』
胸郭に海を沈めた僕たちは息もわすれて群青のなか
入瀬翠「早稲田短歌」44号
胸郭に次の青空 手錠して凧あげている次の恋人
高柳蕗子「潮汐性母斑通信』
■胸に何か青いものがある
うら若き青八千草の胸の野は日の香さびしみ百鳥を呼ぶ
若山牧水『海の声』1908
胸のうちいちど空にしてあの青き水仙の葉をつめこみてみたし
ルビ:空【から】
前川佐美雄『植物祭』1930
人に示すあたはざりにしわが胸のおくどに青き草枯れてをり
葛原妙子『原牛』1959
前川佐美雄『植物祭』1930
人に示すあたはざりにしわが胸のおくどに青き草枯れてをり
葛原妙子『原牛』1959
抱擁をしらざるいもうとの胸のくぼみに青きレモンを置かう
喜多昭夫『青夕焼』1989
喜多昭夫『青夕焼』1989
花ことば「さびしい」という青い花一輪胸に咲かせて眠る
俵万智『かぜのてのひら』1991
俵万智『かぜのてのひら』1991
蒼いマフラー小さく胸におしこんで go went gone good good girl
東直子『青卵』2001
うつしみを抱く蒼穹よ胸中に農鳥岳があれば帰らず
三枝昻之『遅速あり』2019
蒼すぎて傷つきやまぬ胸そこの深さよサファイアのかたき翳りよ
日置俊次『ラヴェンダーの翳り』2019
東直子『青卵』2001
うつしみを抱く蒼穹よ胸中に農鳥岳があれば帰らず
三枝昻之『遅速あり』2019
蒼すぎて傷つきやまぬ胸そこの深さよサファイアのかたき翳りよ
日置俊次『ラヴェンダーの翳り』2019
その他の部位が青い
身体の他の部位を「青い」と詠む歌もあり、集めてみました
「青い胸」ほど多くはありません。
前田夕暮『青樫は歌ふ』1940
●青い背
沼はあとから私についてきた。背なかが青くそまるのを感じた前田夕暮『青樫は歌ふ』1940
鏡面に映る背骨と腰骨のあいだに羽の青痣を見た
鈴木晴香『夜にあやまってくれ』2016
いっしんに背骨は蒼く燃えながら何から逃れようとする線
大森静佳『カミーユ』2018
(背の青を詠む歌をみると、魚や爬虫類のことが多いようです。
「くさまくら父の背中に青空は逃散をやめぬ陽を吊る荒野(江田浩司)」のように、「青空を背にする」「背後の青空」を詠む歌はいくつもありました。)
●青い頭
・頭上の青空を詠む歌は多けれど、頭そのものが青いとする歌は見当たらなかった。●青い腹
・「青い腹」は魚や爬虫類を詠む歌しかなかった。●青い尻
・「青い臀」とか、さもありそうな気がしたけれど、ありませんでした。●青い肩
・肩に青いものが触れる等の歌はいくつかあったが、「青い肩」はなかった。肩の辺に青き昆虫が来てとまるやさしい季節もいつてしまふ
斎藤史(出典調査中)
●青い腕
青じろきながれのなかにひとびとは青ながき腕をひたうごかせり宮沢賢治(出典調査中)
・青銅は必ずしも青くないけれど・・・
青銅の腕に抱かるる一瞬の暗さのありて湖は暮れたり
ルビ:腕【かひな】/湖【うみ】
楠誓英『禽眼圖』2020
楠誓英『禽眼圖』2020
●青い手
がんばってるひとのうすあおい手のなかで 宙 銃声 レタスはじけるルビ:宙【そら】
杉山モナミ
蕗の薹てのひら青む光さしたのしき土に遊ぶひととき
坪野哲久『北の人』1958
杉山モナミ
蕗の薹てのひら青む光さしたのしき土に遊ぶひととき
坪野哲久『北の人』1958
てのひらが青くてふっと立ちすくむいつからここは四階なのか
藤本玲未『オーロラのお針子』2014
風は舞台の奥より吹いて少女たち青い手足を夢につなげる
東直子「かばん」2001年12月
・青い手ではないが近い
うす青いゴム手袋のさきっぽがのびきってめちゃくちゃになれ、俺
加藤治郎『雨の日の回顧展』2008
・手が青いのでなく、青いものを手に持つ、青空に手をのばすといった歌はすごくたくさんあります。
小池光『梨の花』2019
・人間じゃないけれど
薔薇の刺のやうなる青き爪研ぎて出でゆけば猫は深夜のけもの
真鍋美恵子『真鍋美恵子全歌集』
●青い爪
足の爪赤く塗りたる姉むすめ青く塗りたる妹むすめああ小池光『梨の花』2019
・人間じゃないけれど
薔薇の刺のやうなる青き爪研ぎて出でゆけば猫は深夜のけもの
真鍋美恵子『真鍋美恵子全歌集』
●青い指
指さきのあるかなきかの青き傷それにも夏は染みて光りぬルビ:傷【きず】/染【し】
北原白秋『桐の花』1913
「手」のところにも載せましたが、
風は舞台の奥より吹いて少女たち青い手足を夢につなげる
東直子「かばん」2001年12月
・足が青いものに触れる、青いものの上を歩く、青いものを履く、といった歌はたくさんありました。
北原白秋『桐の花』1913
●青い足
「手」のところにも載せましたが、
風は舞台の奥より吹いて少女たち青い手足を夢につなげる
東直子「かばん」2001年12月
・足が青いものに触れる、青いものの上を歩く、青いものを履く、といった歌はたくさんありました。
足もとがふいにさみしい冬河の青にまみれて鉄橋わたる
杉崎恒夫(出典調査中)
●青い舌
青ざめし舌ひらめきてどろどろの影の背後に散る花粉かな江田浩司(出典調査中)
いちまいのものすごく蒼い舌のように海が太陽をねぶっている午後
井辻朱美『水晶散歩』2001
真っ青な舌をみせあい笑ってたアイス・キャンデー溶けるのわすれ
ルビ:舌【べろ】
神﨑ハルミ(出典調査中)
ある日埃を喰らひし明恵【みやうゑ】その舌に紺鼠といふ錆たる青を
ルビ:明恵【みやうゑ】
林和清「短歌往来」2007年12月
・舌に青いものがある
根の国を泳ぎゆく人おもうとき舌先の塩にわかに青む
佐藤弓生(出典調査中)
若山牧水『海の声』1908
秋の空酒を顰めて飲む人の青き額に顫ひそめぬる
林和清「短歌往来」2007年12月
・舌に青いものがある
根の国を泳ぎゆく人おもうとき舌先の塩にわかに青む
佐藤弓生(出典調査中)
●青い額
蒼ざめし額にせまるわだつみのみどりの針に似たる匂ひよ若山牧水『海の声』1908
秋の空酒を顰めて飲む人の青き額に顫ひそめぬる
ルビ:顰【しが】/額【ひたひ】
北原白秋『桐の花』1913
流行の言葉に胡座をかいて危機 青いペンキを鼻につけてさ
江田浩司
北原白秋『桐の花』1913
●青い鼻
鼻そのものが青いという歌は見当たらなかったけれど、鼻に青いものがつく歌はありました。
江田浩司
尿せるわが鼻の先ぺつとりと碧とけむとして雨蛙ひとつ
ルビ:尿【いばり】/碧【あを】
稲森宗太郎『水枕』1930
●青い頬
あをじろき頬涙を光らせて死をば語りき
若き商人
ルビ:頬【ほほ】/商人【あきびと】
石川啄木『一握の砂』1910
紅薔薇見し眼を移す白百合のそのうす青さ君が頬に見る
木下利玄(出典調査中)
月に引かるる女体の痛みはてもなし蒼白き頬の仮死者となりて
有沢螢『致死量の芥子』2000
憤怒というあかるい筋肉 群青の剥げのこりたる仁王の高頬
井辻朱美『クラウド』2014
●青い耳
しんきらり鬼は見たりし菜の花の間に蒼きにんげんの耳河野裕子『ひるがほ』1975
橋落つるとも紫陽花の帆とおもうまで耳蒼ざめてはりつめていよ
正岡豊『四月の魚』1990
・耳に青いものがついている例
牧場より緑玉集め真空より青玉奪い耳に飾らむ
野間亜太子『額縁のない絵』1974
耳たぶに低く唸れる青い石よなんてさびしい人なのだろう
柳谷あゆみ『ダマスカスへ行く 前・後・途中』2012
●青い髪
わが家をふかく見おろす窓ありて趨る家族の髪蒼く見ゆルビ:家【いえ】/趨【はし】
岡井隆『人生の視える場所』1982
青空の青に髪の毛染めたんだ? もう仲直りしなくていいんだ?
植松大雄
予言者の闇には時の星座あれ蒼き髪より蝶を発たしむ
江田浩司『メランコリック・エンブリオ』1996
青髪のおまえは星も凍る夜クラッカーより弾け生まれた
小林真実(雪舟えま)「かばん新人特集号」1998・2
黒髪が濃青(こあを)の髪に見ゆるまで夜深かりきあぢさゐの道
ルビ:濃青【こあを】
高野公彦『水苑』2000
・心臓
人間のはありませんでした。
●青い臓器
臓器を青いとする歌はとても少ないです。・心臓
人間のはありませんでした。
狂い飛ぶつばめの青い心臓が透けてわたしに痛いのだった
大森静佳『カミーユ』
・肺
嬉々として芽生える思想幼くて海の碧さは肺につづけり
江田浩司(出典調査中)
江田浩司(出典調査中)
片肺のその蒼い傘ぱっとひらく あなたの扉を忘れないでね
杉山モナミ「かばん」1999・5
・胃 ナシ
・腸 ナシ
やれやれ、今日はここまで。
0 件のコメント:
コメントを投稿