2021年7月29日木曜日

ミニ53 ハンカチ

 

「ハンカチ」を詠み込んだ歌を探してみました。
本日の短歌全データ 115,733首
そのなかに「ハンカチ」「ハンケチ」という文字列を含む歌は59首ありました。
そのなかから少しピックアップします。

君の落としたハンカチを君に手渡してぼくはもとの背景にもどった
斉藤斎藤『渡辺のわたし』2004

地球儀に絹のハンカチかけしごと海原おおう秋のたか雲
松森邦昭『脳の海』2021

ハンカチーフ白く握りて坐りいる妊婦の腹のいまわしきかな
阿木津英『天の鴉片』1983

父母の涙ぬぐひしハンケチを顔にあてやり棺にをさむ
木下利玄『銀』1914

ハンカチを膝にのせればましかくに暑い杭州体温の町
俵万智サラダ記念日』1987

遠くまで今日よく晴れてマジシャンのやうに大きなハンカチをもつ
小島ゆかり憂春』2005

母でなく妻でもなくて今泣けば大漁旗がハンカチだろう
北山あさひ『崖にて』2020

清潔なハンカチのような嘘をつく この青空をなくさないため
浅羽佐和子『いつも空をみて』2014

つかまえたはずが捕まえられていて洗濯ばさみに垂れるハンカチ
松村正直『紫のひと』2019

川岸の小舟のような雑貨屋であなたが買ってくれるハンカチ
江戸雪『声を聞きたい』2014

ハンカチはヨットを想うつぶつぶを幾万と抱く果物置いて
三好のぶ子「かばん」2003年5月

かの時のハンケチひそと開き見て雨後に立ちたる虹の香をかぐ
前川佐美雄 捜神』1964

本当は誰かにきいてほしかった悲鳴をハンカチにつつみこむ
笹井宏之『てんとろり』2011

ハンカチを落としましたよああこれは僕が鬼だということですか
木下龍也『つむじ風、ここにあります』2013

全身を濡れてきたひとハンカチで拭いた時間はわたしのものだ
雪舟えま『たんぽるぽる』2011

うすばかげろういろのはんかち胸にいれ草庵へゆく草庵は春
東直子『春原さんのリコーダー』1996

鶴の骸【むくろ】は折鶴を折るやうに 思ひ出はハンカチを畳むやうに
笹原玉子(出典調査中)


こんな感じです。

2021年7月30日追記1 いろいろな特徴

コメントはナシのつもりでしたが、かんたんに追記します。

「ハンカチ」には以下のようにいろんな特徴があります。
上記にはすべての歌をあげきれませんでしたが、この特徴はほぼまんべんなく詠まれているようで、これからもう一段階、詩的に深まる可能性を感じる題材です。

形状:小さい布 正方形
清潔 毎日変える
おしゃれ 繊細
匂い:香水 汗
拭くA:涙や汗の吸水
拭くB:汚れの拭きとり
洗濯、アイロンがけ
ひろげる たたむ
包む・かぶせる
振る:別れのときなど、遠くから見えるように
握る・噛む:緊張などの心理表現 
胸ポケット 
胸に名前(昔の幼稚園では名札にしていた)
遊ぶ:ネズミやとんぼをつくる
忘れる・・失くす 必要なときにない
落とすA:気を引くためにわざと落とす(常套的な作戦)
落とすB:ハンカチ落し=相手が気づかぬように「鬼」にする
ハンカチの木:植物の名前

この中で「落とす」系はちょっと注目だな、と思っています。
上には2首をあげました。

君の落としたハンカチを君に手渡してぼくはもとの背景にもどった
斉藤斎藤『渡辺のわたし』2004
ハンカチを落としましたよああこれは僕が鬼だということですか
木下龍也『つむじ風、ここにあります』2013

他にも
夜は実にさみしい朝を連れている ハンカチ落としのハンカチがない
東直子『十階』
など散見しました。

2021年7月30日追記2 俳句川柳も少し

■俳句

ハンカチにつつむ東京暮色かな
西原天気『けむり』2011

ハンカチを干していろんなさやうなら
西原天気(同上)

ハンカチに包み空蝉薫るなれ
澤好摩(出典調査中)

「ハンカチ」はさほど多く詠まれていないみたいで、
(=俳人の表現意欲をあまりそそらないことを意味します)
上記以外はあまり印象に残りませんでした。
(と評価みたいなことを言えるほど俳句を知っているわけではなく、これはいわゆる「個人の感想」です。)

■川柳

作者に偏りがありますが、短歌俳句では見かけない発想の句がありますね。

ハンカチを捨てるぐらいは出来そうだ
定金冬二『無双』1985

死者のハンカチは白かろうはずがない
定金冬二(同上)

ハンカチを三度振ったら思い出せ
筒井祥文『座る祥文・立つ祥文』2019

はんかちにきゅうきゅう吸われゆくわたし
畑美樹『現代川柳の精鋭たち』2000

ハンカチは警察官のかたちして
樋口由紀子『樋口由紀子集』(セレクション柳人)2005

ハンカチは兵のうしろに落とすべし 樋口由紀子(同上)

干したままのハンカチがある私の胃 樋口由紀子(同上)


2021年8月13日追記
「俳句の箱庭」さんより以下教えていただきました。

「三夏の季語としての「ハンカチ」句が圧倒的に多いのですが、「ハンカチの花」(初夏)という植物季語が1句ありました。
ハンカチが季語ではないハンカチ句としては、
ハンカチに土筆ひと束曇りけり
鈴木鷹夫『大津絵』
ハンカチに薬臭のある薄氷
正木ゆう子『悠HARUKA』
などでした。」

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