ピックアップ
呼ぶたびにどんどん遠くなる君の一度だけ振りむきし瞬間
渡辺松男『雨(ふ)る』2016
桁数がどんどん増えてもう声をころせないもう勝ち負けはいい
兵庫ユカ『七月の心臓』2006
役にたつ嘘はどんどんつくべきだ例えば「人はひとりじゃない」と
松木秀『5メートルほどの果てしなさ』2005
ぐんぐんと田打をしたれ顳顬は非常に早く動きけるかも
ルビ:田打【たうち】/顳顬【こめかみ】
結城哀草果『山麓』1929
WWWのかなたぐんぐん朝はきて無量大数の脳が脳呼ぶ
ルビ:WWW【ウェッブ】
坂井修一『スピリチュアル』』1996
ナス、オクラ自分で立つがミニトマトぐんぐん伸びて自分で立てず
奥村晃作『多く連作の歌』2008
みるみる森を村落を田土を平面に押しひろげてのぼる機体!
ルビ:田土【でんど】
前田夕暮『水源地帯』1932
それからの金魚ぎっしり炊きあがりみるみる性欲ふえてゆきます
瀬戸夏子『そのなかに心臓をつくって住みなさい』2012
興味がありましたら以下本編を御覧ください。
ぐんぐん・どんどん・みるみる
どんどん、ぐんぐん、みるみる。
これらは、変化や進捗に勢いがあって急激なさまを表します。
これらは、変化や進捗に勢いがあって急激なさまを表します。
どんどん追い抜く
ぐんぐん追い抜く
みるみる追い抜く
ぐんぐん追い抜く
みるみる追い抜く
--似ていますよね。意味はほとんど同じです。
でも、説明しにくい微妙な違いがあり、わたしたちは無意識にそれを使い分けて、最適な表現を選びとります。
・「どんどん」は汎用性が高い。良い変化にも使うが、悪い変化にも用いる。
「仕事がどんどん捗る」「一人でどんどん行ってしまう」「病気がどんどん悪化する」
「仕事がどんどん捗る」「一人でどんどん行ってしまう」「病気がどんどん悪化する」
・「ぐんぐん」はそのものの内包されたパワーを感じさせる。
「子どもがぐんぐん育つ」など、普通は良いイメージ。
「子どもがぐんぐん育つ」など、普通は良いイメージ。
・「みるみる」は変化に対して特に視覚的な感動や驚きを表すことに重点がある。
「汚れがみるみる落ちる」「涙がみるみるあふれ出る」
一般的にはこのような違いがあると思います。
これらの言葉を短歌に使うと、迫力があって、しかも微妙なニュアンスを捉えるような歌になり得るようです。
本日の闇鍋全データは 162350歌句
うち短歌は 115733首です。
そのなかに、どんどんを含む短歌は36首、ぐんぐんを含む短歌は24首、みるみるを含む短歌は22首ありました。
それを全部並べると多すぎるので、表記に疑問がある歌などを除いて、コメントなしで列挙します。
どうぞたっぷり味わってください。
■どんどん
呼ぶたびにどんどん遠くなる君の一度だけ振りむきし瞬間
渡辺松男『雨(ふ)る』2016
ゆく雲がどんどんことばから逃ぐるきみ逝きて照るひかりの悍さ
渡辺松男『雨(ふ)る』2016
ため込んだ不満憤懣憤怒とかどんどん出て行け下痢は嬉しい 久保芳美
『金襴緞子』2011
雨傘がどんどん海へつづくのが鬱のごとしいや祭りのごとし
高瀬一誌『スミレ幼稚園』1996
神様とわたしどんどん遠ざかる夜ごと赤方偏移のしらべ
佐藤弓生『眼鏡屋は夕ぐれのため』2006
ほほゑみがどんどん深くなつてゆくピーター・ヒッグス八十三歳
坂井修一『亀のピカソ―短歌日記2013』2014
コンパスの軸はどんどんずれてゆく春のくるくる石畳の上
三好のぶ子 「かばん」1998・6
胃に落ちるチョコよ苺よ アマンドを食べてどんどん馬鹿になりたい
柴田瞳(出典調査中)
わり算の予習復習割つて割つて子らはどんどん小さくなりぬ
小島ゆかり(出典調査中)
からだどんどん古びてほつれゆく秋よ水の記憶は淡くなるのみ
松村由利子 「詩客」2018-08-04
花殻はどんどん摘まねばだめと言う手紙を捨てるようにあなたは
松村由利子『大女伝説』2010
役にたつ嘘はどんどんつくべきだ例えば「人はひとりじゃない」と
松木秀『5メートルほどの果てしなさ』2005
火星のプリンセスどんどんいなくなってく彼女の髪だけを切りたい
瀬戸夏子『かわいい海とかわいくない海 end,』2016
やってくる うどんがどんどん からっぽの胃のイマージュに うどんがどんどん
石井僚一『死ぬほど好きだから死なねーよ』2017
「あ、ごめん」と飛ばしたボールは白線を超えてどんどん自由になった
千葉聡『飛び跳ねる教室』2010
負の側に立たされた今を見つめればどんどんどんどん痩せゆく時間
大村早苗『希望の破片(かけら)』2004
「みおちゃんママ」などと呼ばれて手を振りしわれはどんどん腑抜けとなりぬ
鶴田伊津『夜のボート』2017
ちがうひとを好きになることあるけど生まれた者はどんどん生きる
東直子「短歌往来」2006・05
こうもりがどんどん飛んでいる空を鼻血が出ないように見上げる
東直子『青卵』2001
桁数がどんどん増えてもう声をころせないもう勝ち負けはいい
兵庫ユカ『七月の心臓』2006
酸漿ほどだつたといふがどんどんふくらんでこのさきをろちの目
平井弘『振りまはした花のやうに』2006
どんどん捨ててどんどん雑誌また捨ててさびしいさびしい人の言葉を
米川千嘉子『滝と流星』2004
美しい田舎 どんどんブスになる私 墓石屋の望遠鏡
北山あさひ「短歌研究」2014・9
■ぐんぐん
馬鹿げたる考へがぐんぐん大きくなりキャベツなどが大きくなりゆくに似る
安立スハル『この梅生ずべし』1964
靴持たぬゆゑに歩けぬ向日葵はぐんぐん空へのぼるほかなし
伊藤一彦『海号の歌』1995
ナス、オクラ自分で立つがミニトマトぐんぐん伸びて自分で立てず
奥村晃作『多く連作の歌』2008
三角山緑三角頂点がぐんぐんのびて雲にささった
加藤克巳『球体』1969
ぐんぐんと田打をしたれ顳顬は非常に早く動きけるかも
ルビ:田打【たうち】/顳顬【こめかみ】
結城哀草果『山麓』1929
WWWのかなたぐんぐん朝はきて無量大数の脳が脳呼ぶ
ルビ:WWW【ウェッブ】
坂井修一『スピリチュアル』』1996
風に舞うコンビニ袋ぐんぐんと初めて空を見つけたように
若草のみち 「かばん」(時期調査中 2014ころ)
鉛筆を削ること好きなこどもゐてえんぴつぐんぐん短くなるも
小池光『梨の花』2019
タクシーの車体をぐんぐん流れてく五月の空と雲とその影
小島なお『乱反射』2007
回遊魚の群ぐんぐんとめぐりつつ 地球は水素爆弾をもつ
小島ゆかり『憂春』2005
しらないものぜんぶぐんぐん繫いでく映画の中で「カワイイ」と言う
杉山モナミ 『ヒドゥン・オーサーズ 』2017(19人の作品集・Kindle)
雑草はとても大切ぐんぐんぐんひき離されてく交差点です
杉山モナミ 作者ブログ「b軟骨」2011・3
路面には「とびだし注意」の白き文字ぐんぐん迫りその上を行く
大島史洋『ふくろう』2015
赤トンボ行き先ある如ぐんぐんと帰りゆくなりわれの小ささ
冬道麻子『森の向こう』1988
フラミンゴ我にぐんぐん迫り来る真昼の幻視ロード自転車
武富純一『鯨の祖先』2014
何者か夫を杭打つと思ふまでぐんぐん眠り沈みゆくあはれ
ルビ:夫【つま】 杭【くひ】 打【う】
米川千嘉子 (出典調査中)
■みるみる
水たまりみるみるふえて水無月の街はみづみづしき器なり
荻原裕幸(出典調査中)
みるみるにテレヴィの枠よりしたたりて腥き血は床に澪れき
ルビ:床【ゆか】
葛原妙子『朱霊』1970
夜明け 林檎の歯型みるみる鮮やかになりて恋敵の秘密知る
魚村晋太郎『銀耳』2004
救助隊員みるみる小さくなってゆく唇に苦心の接吻を遂ぐ
高柳蕗子『潮汐性母斑通信』2000
黙礼して過ぎれば何か言いかけてみるみる禿げる御尊父様よ
高柳蕗子『潮汐性母斑通信』2000
茄子色にみるみる腫れて来しあたり眼をねらえ眼を俺は熱くなる
佐佐木幸綱 (出典調査中)
こなゆきのみるみるふるは天界に蛾の老王の身をふるうわざ
佐藤弓生『眼鏡屋は夕ぐれのため』2006
それからの金魚ぎっしり炊きあがりみるみる性欲ふえてゆきます
瀬戸夏子『そのなかに心臓をつくって住みなさい』2012
みるみる森を村落を田土を平面に押しひろげてのぼる機体!
ルビ:田土【でんど】
前田夕暮『水源地帯』1932
降る花はみるみるうちに君に積むいよよ手に持つのり弁に積む
藤島秀憲『ミステリー』2019
未来に帰りたくないと泣く少年の頭がみるみる禿げてゆく夜
穂村弘(出典調査中)
冬の透明さに行ってしまった友だちがみるみるなじむ空気の冷たさ
柳谷あゆみ 『ダマスカスへ行く 前・後・途中』2012
■関連
あれよあれよ
いつの間にか覚えた技をかけてみてあれよあれよとさびしくなった
東直子「さがな。」2005・04
見る間に
春の雨雪となりつついみじもよ見るまにつもる濡れたる屋根に
三ヶ島葭子(出典調査中)
家一つ建つと見るまにはや住める人がさえざえと秋の灯洩らす
安立スハル『この梅生ずべし』1964
よぢれつつのぼる心のかたちかと見るまに消えし一羽の雲雀
藤井常世『紫苑幻野』1976
とかげ吐くように吐く歯磨き粉の泡の木曜日がみるまに繰り上がる
野口あや子『眠れる海』2017
いかがでしたか?
ミニアンソロジーにしてはボリュームたっぷりでしたね。
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