Ⅵ その他の〈父+雪〉〈母+雪〉
■〈母未満〉
先に「未完の〈父〉」のところで、自分が父になることを知らない段階の父を取り上げました。
それとは違うのですが、〈母〉にも〈母未満〉という段階があります。
牡丹雪あるいは母に降りけらしわれがうたかたなりけるむかし
塚本邦雄『波瀾』1989
塚本邦雄『波瀾』1989
一方、もう一味違う〈母未満+雪〉の歌も発見しました。
自分の母でなく、恋人や女ともだちが〈母〉になることを詠む歌です。
母か堕胎か決めかねてゐる恋人の火星の雪のやうな顔つき
荻原裕幸『甘藍派宣言』1990
うーん。この雪はいったい何でしょう……?
火星は熱い星だし、字面も「火」。「雪」は真反対のもの。
母か堕胎かという迷いが、火星と雪ぐらいに真反対の両極だという表現だと思います。
火星は熱い星だし、字面も「火」。「雪」は真反対のもの。
母か堕胎かという迷いが、火星と雪ぐらいに真反対の両極だという表現だと思います。
歌の主体はその恋人を、どんな顔で見守っているのか。
そっちのほうが気になります。
だって、恋人が堕胎するかもしれない胎児の父ですよね。いや、違うのかも?
もう1首、こういうのはどうでしょう?
友人のひとりを一人の母親に変へて二月の雪降りやまず
光森裕樹『鈴を産むひばり』2010
女ともだちが〈母〉になる、ということを詠む歌。
それはどういう心情なのでしょう?
そして、この「二月の雪」の役割は?
その「女ともだち」が〈母〉になると、今までのようにつきあえなくなるだけでなく、全く別の位相に生きる存在になってしまうでしょう。
真冬の二月の〈雪〉というのは、人を隔てる分厚い壁のようなものでしょうか。
それはどういう心情なのでしょう?
そして、この「二月の雪」の役割は?
その「女ともだち」が〈母〉になると、今までのようにつきあえなくなるだけでなく、全く別の位相に生きる存在になってしまうでしょう。
真冬の二月の〈雪〉というのは、人を隔てる分厚い壁のようなものでしょうか。
これが例えばもと恋人で、他の人とのあいだにできた子どもだとか、イキサツがあったら、ゴシップ系・どろどろ系の歌になりかねないけれど、「女ともだち」としてあるので、イキサツにしばられず、純粋に、その人が〈友〉から〈母〉になることで遠のく隔絶感、という微妙なことをピンポイントで突くことができたのだと思います。
■そのほか、いろいろな〈父+雪〉〈母+雪〉
最後に、ここまでにとりあげなかったいろいろな〈父+雪〉〈母+雪〉の歌をあげておきます。
〈雪〉はどのような役割で関わっているのでしょう。
グレープフルーツ切断面に父さんは砂糖の雪を降らせています
穂村弘『水中翼船炎上中』2018
あなかそか父と母とは目のさめて何か宣らせり雪の夜明を
ルビ:宣【の】/夜明【よあけ】
北原白秋『雀の卵』
父にふる雪をみていた わたしたち田舎者だと母がつぶやく
東直子(出典調査中)
指を漏る何ものもなし幾万の母らの裡に雪おもき夜
浜田到『架橋』1969
ひたすらに雪融かす肩 母よ 僕など産んでかなしくはないか
吉田隼人「早稲田短歌」43号 2014・3
いかがでしたか。
お読みいただきありがとうございました。
軽い気持ちで書き始めたら意外におおごとになってしまいました。
時間と元気があるときに、もっときちんと調べて考察を深めたいです。
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父母と雪 その0 ピックアップ
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