ピックアップ
父や母を詠む歌にはしばしば雪が出てきます。
集めてみました。こんな感じです。
まさびしき雪夜や父はおそろしく耳ていねいに洗ひて睡むる
伊藤一彦(出典調査中)
わが父よ汝が子はかくも疲れたり雪降るむこう山鳩の鳴く
岡部桂一郎『一点鐘』2002
あくたびの影立ち上がる雪の中父は背中を朱に染めたる
江田浩司(出典調査中)
※あくた‐び【芥火】 〘名〙 ごみや、ちりを焼く火。 特に、漁夫が、流れついた藻芥(もあくた)を集めてたく火。
子の口腔にウエハス入れあは雪は父の黒き帽子うすらよごしぬ
小池光(出典調査中)
三匹の子豚に實は夭折の父あり家を雪もて建てき
小池純代(出典調査中)
雪の夜を迷ひ来たれる軍服のうら若き父はわれを知らずも
水原紫苑『光儀(すがた)』2015
亡き父のマントの裾にかくまはれ歩みきいつの雪の夜ならむ
大西民子『花溢れゐき』1971
雪ちかき野は劇場のごと昏れつ まづ刺さむ肥りたる父と鷽
塚本邦雄『水銀傳説』1961
長身の父在りしかな地の雪に尿もて巨き花文字ゑがき
塚本邦雄『緑色研究』1965
くらぐらと夜に雪ふれば雪の声つかまえており父の補聴器
辻聡之『あしたの孵化』2018
舗装路の罅の間に解けのこる雪のかなしく父老いにけり
浜名理香(出典調査中)
夕方の吹雪はわれらを隠したり父の車で父を運びぬ
岡崎裕美子『わたくしが樹木であれば』2017
岡崎裕美子『わたくしが樹木であれば』2017
グレープフルーツ切断面に父さんは砂糖の雪を降らせています
穂村弘『水中翼船炎上中』2018
オルレアンに春の吹雪のまんじともえ不意にはげしく日本恋しわが母恋し
加藤克巳『春は近きか』2002
※卍巴(まんじともえ)=卍や巴の模様のように、互いに追い合って入り乱れること。
友人のひとりを一人の母親に変へて二月の雪降りやまず
光森裕樹『鈴を産むひばり』2010
てのひらに常に握りてゐし雪が溶け去りしごと母を失ふ
春日井建『朝の水』2004
牡丹雪あるいは母に降りけらしわれがうたかたなりけるむかし
塚本邦雄『波瀾』1989
母よ母よ息ふとぶととはきたまへ夜天は炎えて雪零すなり
ルビ:夜天【やてん】/炎【も】/零【ふら】
坪野哲久『百花』1939
頭にかかる雪を払いて顔抱きし母の掌ぬくし雪道のよる
渡辺於兎男(出典調査中)
死してのち死者老ゆるとぞ雪の夜の鏡ひらけば亡母少し老ゆ
馬場あき子『雪木』1987
母の住む国から降ってくる雪のような淋しさ 東京にいる
俵万智『サラダ記念日』1987
ここはまだ母のふるさと玄関の雪は掻いても掻いても積もる
本田瑞穂『すばらしい日々』2004
雪の夜に過去形のうた一つ書く母の一生のはや過ぎたりと
ルビ:一生【ひとよ】
齋藤史『渉りかゆかむ』1985
このゆふべ吹雪はげしき天上に父母には父母の浄土もあらむ
永井陽子(出典調査中)
あなかそか父と母とは目のさめて何か宣らせり雪の夜明を
ルビ:宣【の】/夜明【よあけ】
北原白秋『雀の卵』
いかがでしたか。
興味がありましたら以下の本編もご覧ください。
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父母と雪 その0 ピックアップ
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