父母と雪
短歌によく詠まれます。
また、雪というものも大人気の題材です。
雪は何と取り合わせても美しさ清らかさを添えるすぐれた題材です。
だからなのか、他にも要因があるのか、父母を詠む歌には雪がよく詠み込まれます。
本稿ではその「他の要因」を検証しながら、同時に歌を鑑賞していこうと思います。
・本稿は、現実の父母や雪のことでなく、短歌の言葉としてのイメージを論じます。
詩歌領域では、一般の言語表現活動(会話や散文)と異なる特殊な意味を帯びて用いられることがしばしばあります。さらに詩歌の中でもジャンルによって違いがあり、本稿は短歌に用いられるときのイメージについて考察します。(父母のイメージは定型詩として近いと思われる俳句ともだいぶ違います。)
・言葉が帯びる抽象的なイメージを《 》で表すことがあります。
例:〈父〉には《威厳》が期待される。
・他の語もこれに準じて〈 〉《 》で表すことがあります。
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Ⅰ 数値で検証 父母と雪
★この項の数値は2021年6月初旬に算出しました。
■〈父〉より〈母〉が多く詠まれる
まずは、〈父〉と〈母〉はどのぐらい詠まれているか、頻度を比べてみました。
うち、
〈父〉を含む歌 1733首 (1.50% 67首に1首)
〈母〉を含む歌 2369首 (2.05% 49首に1首)
※〈父〉と〈母〉両方を含む歌は除きました。
全短歌の1~2%ぐらいで、どちらもなかなかの高頻度※ですが、〈父〉より〈母〉のほうがいくぶん多いようです。
※たかが1%や2%と思ったら大間違い。
ありとあらゆるもの、すなわち万象のなかで、1%も2%も詠まれている題材は破格の大人気と言えます。
(そも万象の数は万なんかではきかないし。)
■〈父〉と〈雪〉は相性が良い?
〈雪〉を含む歌は2641首(2.29% 44首に1首)
これも高率です。
つまり〈父〉〈母〉と〈雪〉は人気語どうし。
だから1首の中に重なることも多いのでしょう。
でも、それだけでなく、詩歌的な相性の良さ、というか、何か引き合う面があるのかもしれません。
〈父+雪〉の歌 42首
〈母+雪〉の歌 38首
※〈父+母+雪〉である歌は除きました。
〈母〉のほうが〈父〉より多く詠まれているにもかかわらず、〈父+雪〉は〈母+雪〉より多いですね。
〈父〉は〈母〉より〈雪〉と結びつきやすい。--〈父+雪〉という組み合わせには、歌に詠みたくなるような何らかの要素があるのでしょう。
■〈雨〉と比較
〈雪〉といえば〈雨〉はどうなの?
ちょっと気になりませんか。ついでにカウントしちゃいました。
〈雨〉を詠む歌は4057首(3.51% 28首に1首)
〈雪〉は2641首(2.29%)ですから、〈雨〉は〈雪〉より多く詠まれています。
ですが、〈父or母〉と〈雨〉との組み合わせは、それに比例して多い、というわけではありませんでした。
〈父+雨〉の歌33首 …〈父+雪〉42首 ⇒〈雨〉は〈雪〉より少ない
〈母+雨〉の歌41首 …〈母+雪〉38首 ⇒順当。
この数字から考えられることは、次の3点です。
〈父〉は〈雨〉より〈雪〉に付きやすい。あるいは〈雨〉と付きにくい。
〈父〉と〈雪〉はちょっと特別な関係であることがうかがわれる。
〈母〉にはそういう傾向は見られない。
ただし、数値上はあまり特徴がなかった〈母+雪〉のほうも、数値に出ていないだけで、実は何か特別な縁がある、ということもないとはいえません。
〈父+雪〉〈母+雪〉の取り合わせにはどんな隠れた要素がありのか、そこからどんな歌が詠まれるのか、次章から、実際の歌を見ながら考察を展開します。
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