ひさしぶりに再開です。
佐藤弓生 『眼鏡屋は夕ぐれのため』
壊されてゆくとき家の内臓が空に呑まれているのが見える
土井礼一郎 『義弟全史』
わが家を壊す朝に散りたまる玻璃あり青き空を映して
佐伯裕子 (出典調査中)
壊さるる空き家のなかの落書きの麒麟があふぐ初めての空
渡辺南央子 『天空のかすみ草』
雲の崖ゆ風なだれ来よ家毀す犯意にわれの革るべし
ルビ:革【あらたま】る
春日井建『青葦』
屋根や天井がなくなるから、空が見える。
今まで屋内にあったものが空にさらされる。
家は生き物に準ずる感じ。魂が昇天する。
とりまとめると、そういう感じであるようです。
「空」と言っていないけれど、次の2首もその仲間。
はじめてのそして最後の夕日浴び解体家屋はからだを開く
勺禰子『月に射されたままのからだで』
空き屋なる家を毀てるふる雨に昭和残像の便器がのぞく
池田裕美子 『時間グラス』
そうなると気になるのは、家を壊す歌で「空」が出て来ない歌です。
どんなことを書くんでしょう?
路地奥の家なれば機械入れられず解体は人の手もて行う
奥村晃作『キケンの水位』
どつしりと大樹のやうに建つ家を壊さむとする重機に礼す
ルビ:礼【ゐや】
大西久美子『イーハトーブの数式』
家ひとつ取り毀された夕べにはちひさき土地に春雨くだる
小池光『日々の思い出』
けふにかけてとり毀す家から忘れずにもちだされる死者のもの
平井弘『振りまはした花のやうに』
壊れたる家を素手もてなほ壊すあの日の父の怖ろしかりき
逢坂みずき『まぶしい海』
なるほど。いろいろある。
「家」を壊すことに「加害」であるような感じは、なんとなく全体として共通している気がします。
2023・6・28
2023・07・07 追加
においごと家屋は解体されてゆく記録されない巣穴の記憶
雛河麦「かばん」202306
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