2023年12月10日日曜日

レア鍋日記 2023年 (随時更新しています)

 レア鍋日記とは

たまに更新しています。


■2023・12・10 古希(空鍋)

先月古希を迎えたので、「古希」という語を詠む短歌を探したら、DB「闇鍋」にはひとつもなかった。

本日の闇鍋 総数174,843歌句
      うち短歌126,588首
        俳句 33,607句
        川柳 14,073句
        (その他 都々逸などが少しあります。)

なお、「還暦」は7首、「喜寿」4首、「米寿」3首、「卒寿」3首があり、
なぜ「古希」だけないのか、気になります。
「コキ」という固くて短い語感が歌人の詩心をくすぐらないのかな?

還暦等の歌を1首ずつあげておきます。

白南風や遠山なみに空ありてわれは還暦の少年となる
三枝昻之『世界をのぞむ家』2008

果てる昭和の母が故郷の秋天にくしけずりくしけずる喜寿の白髪
三枝昻之『塔と季節の物語』

死ぬること話題とならぬ日はあらず米寿の義父の眉の毛長し
久々湊盈子 (出典調査中)

長くながくかかりて選ぶ夏帽子卒寿の母に気力のわきて
中川佐和子 『夏の天球儀』2022


■2023・10・19 ヒーローたち
(ワン鍋賞・ニャン鍋賞)
スパイダーマン、スパイダーマン、バットマン、デビルマン、キカイダー、セーラームーン、仮面ライダー


本日の闇鍋短歌126440首のなかでスーパーヒーローを思いつく限り検索してみた。

【ワン鍋賞】
吸い付かせ踏ん張らせども翌朝はまた落ちているスパイダーマン
武富純一『鯨の祖先』2014

バットマン交通事故死同乗者ロビン永久記憶喪失
穂村弘『ラインマーカーズ』
(たった1首がこの内容では気の毒……。)

デビルマン群れ飛ぶやうな大茜ひたに地上のわれを囲へり
有沢螢『朱を奪ふ』

「ジロー、チェンジ、キカイダー」と命じても「ううう」と呻く加藤治郎は
穂村弘(出典調査中)

美少女戦士セーラームーン「月にかわってお仕置きよ!」願わくば世界に
藤原龍一郎

【ニャン鍋賞】
甘酒の香る歳月の門にしろがねの仮面ライダー仁王立ちにて
井辻朱美『クラウド』2014

二代目の仮面ライダーやつてきて「ライダーキック!」と叫びつつ蹴る
喜多昭夫『青夕焼』1989

なお、大人気は「ウルトラマン」18首、「アンパンマン」11首。
また、「鉄腕アトム」も人気で8首。他に「鉄腕」なしの「アトム」(内容からみて手塚漫画のアトムを詠んでいると思われる歌)7首もある。
「鉄人28号」も6首と健闘。
「キン肉マン」「月光仮面」「少年ジェット」「ゴレンジャー」なし。

オバQ(ワン鍋賞)

★ヒーローじゃないけど

落書きは白いチョークのオバQか性器かせつなく夕日があたる
藤原龍一郎(出典調査中)

「オバQ」という語を使う短歌はこれ1首

なお「ハットリくん」も1首だけあったが、作者も出典もあやふやなので、今回はノーカウント。

■田んぼに落ちる 2023・10・12 (ニャン鍋賞)


まったく脈絡なく、「田んぼに落ちる」というフレーズが脳裏に浮かんできた。
私が子供の頃は、まあまあ都会に近いうちの近所の道端にも田んぼがあった。
あれなら、子どもとか酔っ払いとかが「田んぼに落ちる」ことは、きっとよくあることだったと思う。今だって田んぼのある場所ならば、なにかの拍子に落ちることはあるだろう。

「田んぼに落ちる」のは、泥だらけになる大事だが、さして危険ではない。「あの日、帰りに田んぼに落ちてえらい目にあった」と笑い話にできる。そういうところを生かして詠まれてないかな、と思って検索してみたら、
私の手持ちデータベース内にはたった2首しかなかった。
今なかったら、この先もほとんど詠まれまい、と思うので、ここに書いておく。

猫さえも横切らない一本道飽きて来た頃田んぼに落ちる
ふらみらり「かばん」2012・9

この歌は私が「きっとある」と思った感じそのものだ。もしかすると、以前にこの歌を「かばん」誌で目にしていたから、先に書いたようなことを考えた可能性もある。

田んぼに落ちて笑いあうふたりには巨大すぎるアメリカザリガニ
山下一路『スーパーアメフラシ』2017

こちらの歌はクセモノ。
普通なら「二人」は恋におちるもの。その勢い余ってか思いがけず田んぼに落ち、それでも面白がって笑っていたら、さあタイヘン。
どんぐりには親切などじょうが現れたが、この田んぼには巨大なアメリカザリガニがいて、二人は……、という映画みたいな歌。
(ただし、この作者には社会詠が多い。おもしろおかしく暮らしていたらいきなり大国のえじきになる、というような比喩ともなり得る歌だと思う。)

■緩衝材 2023・8・12 (ニャン鍋賞)

「緩衝材」って短歌では見かけない言葉じゃないかな、と思ってちょっと検索。

本日の闇鍋 短歌総数125,484首
うち、「緩衝材」を詠み込んだ歌は2首でした。

ちぷたぷと緩衝材を潰してるちぷたぷ、きみはおでこ広いな
秋月祐一『この巻尺ぜんぶ伸ばしてみようよと深夜の路上に連れてかれてく』

残りたる春のいくつか押し出して緩衝材に穴だけがある
toron*「胎動短歌」vol.3 2023/5

■梱包材 2023・8・12 (ワン鍋賞)

ついでに「梱包材」も検索したら、これ1首だけでした。

梱包材つぶし飽きたらひねるのをはじめてからの記憶が荒い
山階基『風にあたる』2019

■プチプチ 2023・8・12 (ワン鍋賞)

ついでのついで、「プチプチ」も探したら1首ありました。

プチプチをプチプチするのがとまらないきもちはゴドーを待っている
杉山モナミ 「かばん」2011.9

■ビニール紐 2023・8・12 (レア鍋賞)

ついでのついでのついで 「ビニール紐」(本当の名称はわからないが)も探したら、3首ありました。

白いビニール紐に縛られ笑む人も若かったねと言われるだろう
東直子 短歌日記『十階』

汚れたるビニール紐が足首にからまるいたるところに国境
野樹かずみ『路程記』

荷を巻けるビニール紐を切りたれば撥ね上がり空のなにかを切りぬ
ルビ:空【くう】
梅内美華子『真珠層』2016

2023年12月5日火曜日

ちょびコレ マッチング 並べて読みたい歌2023

 まったく別々に詠まれた2首に、

もしかして本歌取り?と気になった、

歌合せだったらいい勝負じゃんと思えたり、
時を超えて応答しているみたいだったり、
歌人の個性の違いを感じておもしろかったり、
同じ作者の作なら進化や変化を感じたり、

することがあります。

とにかく並べて読むだけで〝批評マインド〟が刺激される。
そういうセットがときどきあるので、見つけたらとりあえずここに書きとめます。

ただし、私は、
優劣には興味がない。
歌を並べて優劣を決めたいわけではない。
そこのところ、よろしくおねがいします。

▼2023/12/04
■乗せてくれない列車の拒絶感


3番線快速電車が通過します理解できない人は下がって
中澤系『uta0001.txt』2004

特快はもうありません酸素ボンベわすれた人は帰ってください
山下一路『スーパーアメフラシ』2018

山下の歌、中澤の歌を意識して詠まれた可能性があります。
でもまったく偶然に、共通性のある歌が詠まれることもあるし、
あるいは、世の中の変化が必然的に歌人にこういう歌を詠ませることもある、とも思えます。
とにかく、
作者が意識しようがしまいが、偶然だろうが必然だろうが、
似た題材・似たテーマで詠まれた歌どうしは応答する。

このことが重要です。

【ついでにちょっと考察】
 乗車中の列車内の事象を詠む歌なら、一般列車も含めてたくさんありますが、「特急・特快・快速・急行」niは、「乗れない列車」の「通過待ち」ということがあります。
 乗れない特快などに通過され見送る、という物理的体感や心理体験は、どのように詠まれているか気になって、特急・特快・快速・急行のいずれかを含む歌を検索しました。
 該当歌は63首あり、内容を車内か車外かでざっと分けてみると、
(内外の区別が微妙なものもありますが)
以下のようになりました。

 ・列車の体感や視覚表現と思われる歌 22首
 ・列車の体感や視覚表現と思われる歌 31首
  ★うち「乗れない列車」を詠む歌
 ・その他(内外の区別なしor不明) 10首

 列車外に身をおいて詠む歌にも、外観を詠んだり遠景として詠んだりとさまざまあって、「乗れない列車」として拒絶的な感覚を詠む歌は少数でした。(意外でした。)
 しかし、「乗れない列車」という屈折は既に意識されており、「乗る」「乗っている」ことを詠む歌も、「乗れない」場合があることが無意識にも踏まえられている感じを受けるものがあります。

けものみちは優しくわらう三鷹駅快速電車におとなしく乗る
風野瑞人「かばん」2018・2
 「おとなしく乗る」には、かすかに、屈折した駆け引き感があります。
 列車に乗る乗らないは普通ならこちらの自由ですが、この「おとなしく乗る」は、乗せてくれない場合があること、列車側に主導権がある場合があることを踏まえての駆け引きだと思います。

あたたかき自分の髪に顔を入れ快速電車に眠り続ける
前田康子『窓の匂い』2018
 こちらの歌の「快速電車に眠り続ける」には、目的地までの長距離を乗り降りなしでまとまった時間安心して眠れる、という安心感がある思います。
 この安心感は、乗れなかった人には得られないものであって、屈折と呼ぶにはかぎりなく薄いけれど、乗れた乗れないのコントラスト感を、わずかにかすめていると思います。


2023・7・28

■君もしくはあなたがちょっと乱暴(植物などに対して)を働くのを見ている

ありそうで意外に少ないシチュエーションです。

ぴかぴかの顔であなたは園庭のヤブガラシさえほどいてしまう
土井礼一郎『義弟全史』

雨つぶを散らしてきみは力ある葡萄の房をひきおろしたり
加藤治郎『昏睡のパラダイス』



23年度は、このコーナーの収穫が少なくて残念。