2024年2月20日火曜日

ちょびコレ21 太郎と次郎

 

「ちょびコレ」とは、
「ミニアンソロジー」というほどの歌数はなく、
「レア鍋賞」ほど少なくもない……、
そんな、ちょっとした短歌コレクションです。

太郎と次郎

誰しもがなにかの広告塔になる 太郎は家電 治郎は菓子屋
土井礼一郎「かばん」2023年12月号

水もどり風もどりたり蛙田の太郎どぜう田の次郎やいづこ
平井弘『振りまはした花のやうに』

太郎次郎は一歩世界を変えなむか風よ風よと鯉泳ぐ空
三枝昻之(出典調査中)

太郎次郎三郎四郎泣いていたかもしれなくて山の道行く
東直子『十階』

次郎子に乳あたふれば寄りて来し太郎子ははや寝息たてをり
秋山佐和子『空に響る樹々』

ディスク・ジョッキー流れて行かん低き町 太郎の妻あり次郎の妻あり
前田透『煙樹』


太郎次郎といえば、三好達治の詩


太郎を眠らせ、太郎の屋根に雪ふりつむ。
次郎を眠らせ、次郎の屋根に雪ふりつむ。

が有名ですよね。

この太郎次郎は、太郎次郎三郎四郎……→「すべての人」の屋根に雪が降る、
という意味あいだと思います。
しかし、「太郎次郎」には、他の詩的可能性がある。
「太郎」と「次郎」といえば普通は兄弟。
その二者の関係、仲良く切磋琢磨して育つ者、微妙な序列、年の差、家の中の役割など、注目点はいろいろありそう。
まだまだこれからの題材だと思います。

★セットで詠まれる詩的題材、ちょっと興味出てきました。
「父と母」「赤と青」なんかはすごく詠まれています。
 2つのものの対比的な面や、補完しあう面をさまざまに生かして、多く詠まれれば詠まれるほどにそれが進歩する感じでイメージの財産が増えていく。
 そういう意味からも、「太郎と次郎」という題材は、もっと詠まれていいと思います。

2024年2月20日

2024年2月17日土曜日

ちょび研1 歌人は「以前」が気になりがち?

 

短歌ちょびっと研究

「以前」「以後」「以来」の使用頻度


2019年の春頃に、「以前」「以後」「以来」という語の使用頻度を調べたら、短歌俳句川柳で大きな違いがあった。
あれからデータが増えたので、再度カウントしてみたところ、
あまり傾向が変わっていないことがわかった。

短歌には「以前」が多く、
俳句川柳では「以後・以来」が多い。
ジャンルの違いでこんなにあからさまな差がつくものだろうか。

ただ、俳句川柳のデータはあまり持っていないので、あまり強気では言えない。
特に川柳は、たった14000句程度しか持っていないため、精度が低い。

そこで、川柳「おかじょうき」のデータベース(74,000余収録)で検索してみたところ、
「以前」2句、「以後」11句、「以降」2句という結果だった。つまり、「以前」は少なくて「以後」が圧倒的に多い。これは確かなことのようである。

なら俳句も、というわけで、現代俳句協会のデータベースも調べてみた。
「以前」4句、「以後」45句、「以来」11句で、やっぱり「以前」はとっても少ない。
(このデータベースは総数が書いてないけれども、5万以上はあると思われる。)

伝統の定型詩の仲間なのに、どうしてでしょう。
なぜだかわからないが、なまはんかな推測はやめておこう。
少なくとも、調べてみなければわからない偏りを発見した、というだけで今はよしてしよう。


2024年2月12日月曜日

ちょびコレ20 指をたてる

 「ちょびコレ」とは、

「ミニアンソロジー」というほどの歌数はなく、
「レア鍋賞」ほど少なくもない……、
そんな、ちょっとした短歌コレクションです。


 指をたてる

「指を立てる」ということを詠み込んだ歌を探したところ、7首みつけた。

中指を立てる千年先からも空色の爪がよく見えるやうに
魚村晋太郎『銀耳』

望むまま世界は歪む中指を立てて眼鏡を押し上ぐるたび
光森裕樹『鈴を産むひばり』

小野さんが中指たてて風向きをはかるしぐさでじっとしている
藤田千鶴『白へ』

中指のあらん限りを立てている松のさびしき武装蜂起は
吉岡太朗『世界樹の素描』2019

杉の木を指とおもへば寒の指一本立ててゐるさみしさや
渡辺松男『時間

気の弱い奴のはずだが指立てて指に風呼ぶ今朝のあいつは
坪内稔典『豆ごはんまで』

鳶の尾の乱れぬさまを言うならば指をするどく斜めに立てよ
依田仁美『異端陣』2005


ご覧の通り7首中の4首は「中指」である。

世間では、「中指を立てる」のは「ファックサイン」であって、相手を侮辱する品のない仕草である。

短歌の中ではどうなのか。
短歌に品のないことをめったに書かないし、読者も、はなから下品なイメージは想定しないで読む人も少なくない。

でも、その気で読むと、「ファックサイン」の含みもあるように見えてくる歌もあるなあ。あ、余計なこと言っちゃったかな。


なお、「立てる」と書いてないけれど、次の歌の指はいかにも立っている。むろんちっとも下品じゃない。

たくさんの空の遠さにかこまれし人さし指の秋の灯台
杉崎恒夫『食卓の音楽』1987

2024年2月12日