2019年10月28日月曜日

富士の見立て(9) 大団扇で雲を払う

むさし野にはゞかる程の団(うちわ)がな扇ぎてのけむ富士のむら雲 月洞軒 T1690

Oh, for an uchiwa broad as the Musashi plain to fan away
the swarms of clouds that block my view of Fuji today

F:古語辞典で調べたら、「はゞかる」はこの場合「いっぱいになる」という意味みたいですね。
 広大な武蔵野いっぱいの大団扇があればいい。富士の雲を払いのけてスッキリさせられるのに、ということでしょうか。

G これは武蔵野住まいの狂歌師月洞軒の歌集『大団』(約二千首収録)にある。歌集の題はこの歌からとられたのであろう。
 雲に情(こころ)あるならばという万葉歌(三輪山をしかも隠すか雲だにも情あらなも隠さふべしや/額田王)のアピールとはずいぶん異なるアプローチだ。
 また、異なる解釈として、富士から湧き出てこちらに向かって来る雲を扇いで散らしたいというのもあり得るだろうか。その場合なら、the swarms of clouds from Fuji that darken even dayと訳すのもいい。
 月洞軒の師匠の信海は特に富士を好んだが、気難しい人だった。先生の気を晴らしてあげたかったかもしれない。
(続く)

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