2019年10月28日月曜日

富士の見立て(7) 富士のけむり 西行のゆくえ

西行のたばこの煙空に消て鼻の穴より出し富士のね 貞柳 (画賛)1734

As the smoke from Saigyo's tobacco vanishes in thin air,
descending from a nostril, Fuji's peak appears there.

G:これは上方狂歌の祖師貞柳が「富士見の西行」の絵に寄せて詠んだ画賛。
 西行には「風になびく富士の煙の空に消えてゆくへもしらぬわが思ひかな」
という有名な歌があります。

F:その歌を吟じる西行の横顔にうしろの富士が重なって、富士の煙がちょうど西行の鼻のあたりから出ている図が思い浮かびます。
 富士は古代からときどき噴火していて煙が出ている姿が普通だったんですね。

G:ご参笑に、
「風になびく富士の煙の空に消えて行衛(ゆくえ)も知らぬ法師なりけり 白玉翁(T1731)」
などもあるよ。
 西行の遺体の行方がわかっていない、という話もある。その意味も含まれるかも知れない。

行衛(ゆくえ)しらぬ時しらぬとて白雪をひっかふりふるふしのいたゝき 信海 T1688

As for the season and his destination, Fuji doesn't know
he just keeps his old crown well-covered with the snow.

F:富士が「知らぬ知らぬ」と雪で頬っかむり?

G:そう。全て忘れた白髪老士の痴呆症を装っている。
 「行方しらぬ」は先にあげた西行の「ゆくへもしらぬわが思ひかな」、そして「時しらぬ」は、伊勢物語「時しらぬ山は富士の嶺いつとてか鹿の子まだらに雪のふるらむ」から。どちらもよく富士の狂歌の本歌になる。

瓦屋は煙立つと云う富士に似て夏でも雪を見する卯花 庵丸K1787

F:西行ではないけれど、煙をもう一首。「瓦屋は煙立つ」ってどういう意味でしょう?

G:瓦屋はいつも瓦を焼く煙をたてているから富士に似ている。
 また卯花も夏に白く咲き乱れるさまが雪などに喩えられる。

(続く)

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