かりがねののちの虚空をわたらふや月よと呼べる雪のことばの
山中智恵子『虚空日月』1974
春という言葉に力がありすぎて「春」と言うたび雪崩るこころ
北山あさひ「まひる野」2016年4月号
きみには言葉が降ってくるのか、と問う指が、せかいが雪を降りつもらせて
井上法子『永遠でないほうの火』2016
はじまりのことばがゆびのあいだからひとひらの雪のように落ちた
笹井宏之『てんとろり』2011
■そのほか
きみのため言葉失ひ雪圧に堪へをり四方から昏れきて夕べ
小野茂樹
だって金曜の夜だよ 雪のように言葉が溶けていく山の手線
北川草子『シチュー鍋の天使』
駅前のオルガン弾きがわたくしの知らぬ言葉で「雪」とつぶやく
入谷いずみ『海の人形』
いはかがみ嘆ききはまりて残雪のごとし言葉をいかほど白く
西王燦『バードランドの子守歌』
視界より雪をはづせば今しがた書き出す文のことばうしなふ
三島麻亜子『水庭』
右手あげ角を曲がりてゆきにけり今生といふことば堰きたり
小島熱子『ぽんの不思議の』
をさむべき言葉はさびし雪ながらもろき微笑を一人あはれむ
河野愛子
処女といふことばさびしむ国道に春の雪降る冬のゆふぐれ
西田政史『ストロベリー・カレンダー』
祝うべき枯渇? ことばも雪のように肌に触れると死ぬのね、こねこ
糸田ともよ『水の列車』
寄りながら暗き言葉をうちかはす我らの肌で焼死せよ雪
藪内亮輔『海蛇と珊瑚』2018
水の面に言葉沈めて聞くように雪限りなく透明となる
木島泉
【俳句】
雪夜にてことばより肌やはらかし 森澄雄
細雪妻に言葉を待たれをり 石田波郷
【川柳】
言葉が過ぎて雪足元にくずれおち 片倉卯月
傘に雪言葉たらずのまま別れ 熊谷冬鼓
雪深しどんな言葉を選んでも 吉田州花
2021年5月3日追加
雪の上に雪がまた降る 東北といふ一枚のおほきな葉書
工藤玲音『水中で口笛』
工藤玲音『水中で口笛』
点字に知るこの世もあって指先の六つの点が雪と教わる
小島なお『展開図』
死者たちの文なり雪はゆつくりとわれとことばの間に降るべし
ルビ:間(あひ)
本田一弘『磐梯』
ふと外に目をやれば雪何か乞うメールが文字化けしているような
兵庫ユカ『七月の心臓』
消音のテレビの中にちらちらと雪は字幕に混じりつつ降る
服部真里子『遠くの敵や硝子を』
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