東直子
幻影肢ばかりのこころがかゆくなる翼はドードー触角はかげろふ
井辻朱美『水晶散歩』
風を生むものみな翼と呼ぶべきかたてがみかゆい獅子の棲む空
井辻朱美『クラウド』2014
接続のパルスの音はしんとして指のつけねが少しかゆい日
富田睦子
むづかゆく薄らつめたくやや痛きあてこすりをば聞く快さ
岡本かの子『かろきねたみ』1912
父兄との押し問答をするうちにへその辺りがかゆくなりたる
江田浩司
大空に描くほどつらい蝶の足かゆいところに手が届きすぎる
三好のぶ子「かばん」1998新人特集号v2
遠き世の噂話が届きしか三月耳がしきりに痒し
三枝昻之 『甲州百目』
幾筋も汗流れをりわれにまだ棄つるべきものある歯痒さよ
田村元『北二十二条西七丁目』2012
公園の夜のトイレはきれいだな 歩きつつコンタクトかゆくなる
永井祐『日本の中でたのしく暮らす』2012
寝かせても不味いカレーと意識した途端に痒くなる虫刺され
柴田瞳
カサカサのひざ下かゆし猫じゃらし茂る空き地にボールを追えば
あまねそう『2月31日の空』
べらばうに命が痒い咲きかけの泰山朴がゆれてゐるあのあたり
川野里子『太陽の壷』2003
むかしわが伴侶たりしゆえ陸橋の背をはねて行く痒きリヤカー
岡井隆『朝狩』1964
金いろの蛇らが立ちて泳ぎ来るを眼のふち痒くなるまで見をり
河野裕子 『家』2000
体中かゆくてかゆくてかきむしる「かゆくない」が思い出せない
ふらみらり「かばん新人特集号」2015
西ひくく光乱れている雲よ左太腿のあたりが痒し
ルビ:太腿 【ふともも】
阿木津英『天の鴉片』1983
藤のはなぶさかたちよけれど かゆいところにはとどかざりけり
髙瀬一誌『火ダルマ』2002
読み聞かせ、駆けつけ警固、江戸しぐさ、痒いところが余計痒くて
勺禰子『月に射されたままのからだで』2017
輪郭の溶けゆく貌に驚いて首都の末梢神経が痒い
ルビ:貌【かお】
菊池裕『アンダーグラウンド』2004
目の裏がかゆくなりたりとおもひしとき突発的にわれ眠りたり
小池光『時のめぐりに』
夏祭り湿疹かゆし八月の真紅の真ん丸 何もなかった
和合亮一 作者note 2015・10・27
アンコールし続けている手の平がかゆくてかゆくて出てこい早く
相原かろ『浜竹』
神様はなんでかゆいを作ったの 恋がかゆい、とかよりいいけど
ナイス害 サイト「うたの日」より
体質が変わったのだろうおととしの自分の比喩が痒い夕暮れ
兵庫ユカ『七月の心臓』
びっしりと芽吹く夜空のむず痒さわたくしにまだ母がいるから
佐伯裕子『感傷生活』
たまに痒くなるためだけの乳首などふたつ灯せりちいさき冬に
内山晶太 「詩客」2012-12-07
■2021年6月23日追記
俳句籾かゆし大和をとめは帯を解く
阿波野青畝
水虫がほのかに痒しレヴユ見る
富安風生
痒そうに野川流るる麦の秋
清崎敏郎
藁塚が見えて目のふち痒きかな
山川蝉夫『山川蝉夫句集秋』
夏の星同心円状に痒し
石原ユキオ 作者web「石原ユキオ商店」
葱坊主ぜんゐんあたまかゆきかな
渡辺松男『隕石』
春一番しっぽはないがかゆくなる
久真八志「かばん」201306
情死ありまた雁瘡の痒きころ
藤原月彦『藤原月彦全句集』2019「
川柳
右手が痒い犬のように噛むか
高須唖三味
トーストが静かに焦げてゆく痒み
畑美樹
痒いのと痛いのどちらとりますか
丸山進
進化中というのはかゆいものですね
ひとり静
都々逸
入れておくれよかゆくてならぬ 私ひとりが蚊帳の外
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