2020年2月19日水曜日

ミニ2 痒い

北風を縦割りにして開きつつあちこち痒い子を連れ園へ
東直子

幻影肢ばかりのこころがかゆくなる翼はドードー触角はかげろふ
井辻朱美『水晶散歩』

風を生むものみな翼と呼ぶべきかたてがみかゆい獅子の棲む空
井辻朱美『クラウド』2014

接続のパルスの音はしんとして指のつけねが少しかゆい日
富田睦子

むづかゆく薄らつめたくやや痛きあてこすりをば聞く快さ
岡本かの子『かろきねたみ』1912

父兄との押し問答をするうちにへその辺りがかゆくなりたる
 江田浩司

大空に描くほどつらい蝶の足かゆいところに手が届きすぎる 
三好のぶ子「かばん」1998新人特集号v2

遠き世の噂話が届きしか三月耳がしきりに痒し 
三枝昻之 『甲州百目』

幾筋も汗流れをりわれにまだ棄つるべきものある歯痒さよ 
田村元『北二十二条西七丁目』2012

公園の夜のトイレはきれいだな 歩きつつコンタクトかゆくなる 
永井祐『日本の中でたのしく暮らす』2012

寝かせても不味いカレーと意識した途端に痒くなる虫刺され
 柴田瞳

カサカサのひざ下かゆし猫じゃらし茂る空き地にボールを追えば 
あまねそう『2月31日の空』

べらばうに命が痒い咲きかけの泰山朴がゆれてゐるあのあたり 
川野里子『太陽の壷』2003

むかしわが伴侶たりしゆえ陸橋の背をはねて行く痒きリヤカー 
岡井隆『朝狩』1964

金いろの蛇らが立ちて泳ぎ来るを眼のふち痒くなるまで見をり 
河野裕子 『家』2000

体中かゆくてかゆくてかきむしる「かゆくない」が思い出せない 
ふらみらり「かばん新人特集号」2015

西ひくく光乱れている雲よ左太腿のあたりが痒し
ルビ:太腿 【ふともも】
 阿木津英『天の鴉片』1983   

藤のはなぶさかたちよけれど かゆいところにはとどかざりけり 
髙瀬一誌『火ダルマ』2002

読み聞かせ、駆けつけ警固、江戸しぐさ、痒いところが余計痒くて
 勺禰子『月に射されたままのからだで』2017

輪郭の溶けゆく貌に驚いて首都の末梢神経が痒い
ルビ:貌【かお】
 菊池裕『アンダーグラウンド』2004

目の裏がかゆくなりたりとおもひしとき突発的にわれ眠りたり
小池光『時のめぐりに』

夏祭り湿疹かゆし八月の真紅の真ん丸 何もなかった
和合亮一 作者note 2015・10・27

アンコールし続けている手の平がかゆくてかゆくて出てこい早く
相原かろ『浜竹』

神様はなんでかゆいを作ったの 恋がかゆい、とかよりいいけど
ナイス害 サイト「うたの日」より

体質が変わったのだろうおととしの自分の比喩が痒い夕暮れ
兵庫ユカ『七月の心臓』

びっしりと芽吹く夜空のむず痒さわたくしにまだ母がいるから
佐伯裕子『感傷生活』

たまに痒くなるためだけの乳首などふたつ灯せりちいさき冬に
内山晶太 「詩客」2012-12-07


■2021年6月23日追記

俳句


籾かゆし大和をとめは帯を解く
阿波野青畝


水虫がほのかに痒しレヴユ見る
富安風生


痒そうに野川流るる麦の秋
清崎敏郎


藁塚が見えて目のふち痒きかな
山川蝉夫『山川蝉夫句集秋』


夏の星同心円状に痒し
石原ユキオ 作者web「石原ユキオ商店」


葱坊主ぜんゐんあたまかゆきかな
渡辺松男『隕石』


春一番しっぽはないがかゆくなる
久真八志「かばん」201306


情死ありまた雁瘡の痒きころ
藤原月彦『藤原月彦全句集』2019「


川柳


右手が痒い犬のように噛むか
高須唖三味


トーストが静かに焦げてゆく痒み
畑美樹


痒いのと痛いのどちらとりますか
丸山進


進化中というのはかゆいものですね
ひとり静



都々逸

入れておくれよかゆくてならぬ 私ひとりが蚊帳の外

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