ドレミなどの音名を詠み込んだ短歌を集めてみた。
こういうことを詠む作者は限られていて、やや偏りがあります。
もたまたま見つけた俳句や川柳も含めました
【ド】
錯乱のドの音からの駆けくらべ
樋口由紀子『容顔』(川柳)
(短歌ではドの音単独で詠み込む歌が見つかりませんでした。)
【レ】
レの音のうちやまぬなり五ページで消えてしまった狐のこども
東直子 『十階』
きみをおもちゃにしてるだなんてねーまさか楽器にしてるレの音を出す
吉岡太朗「短歌研究」2011年5月号
【ミ】
ひとの不幸をむしろたのしむミイの音の鳴らぬハモニカ海辺に吹きて
寺山修司 『血と麦』
【ファ】
海流にかすかにまざるファの音の、音を吸っては膨らむ船の、
千種創一『砂丘律』
ファの音とファよりちょっぴりずれた音で不協和音を鳴らす踏切
松木秀『RERA』
【ソ】
(ソの音単独で詠み込む歌句は見つかりませんでした。)
【ラ】他の音よりやや人気? 数がありました。
フラジオレットで叫ぶ子の身も不安も死も全てラの音に収斂された
中島裕介『Starving Stargazer』
葬送の曲の中からラの音をララ……口ずさむ歳下の叔父
江田浩司
きょうはラの音でくしゃみをしたいから「ドレミふぁんくしょんドロップ」は青
枡野浩一
落日の駱駝ねぎらう磊落な裸神の歌がラ音の濫觴
高柳蕗子『あたしごっこ』
ただ ラの音を パンと弾く だんだら縞の鳥が飛ぶ
高柳篤子『高柳篤子作品集』(俳句)
ラの音が錆びてしまったハーモニカ
丸山進『アルバトロス』
【シ】
しゅろの木のシの音さらさらかき鳴らし天高くゆく地球の風は
井辻朱美『クラウド』
【2音以上含む】
ゴミ置き場でビンを叩いて音階をつくるドレミファそらに新月
千葉聡(たぶん「かばん」誌 年月不明)
快楽の音のドとシが咲くアリア草がしとどの遠退くライカ
雨谷忠彦(たぶん「かばん」誌 年月不明)
熱帯の雨季など知らぬ眸をしてうたうドレミのファが高かりき
石井浩「かばん」新人特集号2010
水を吸い水の匂いをまとうまでドレミファソっとことば沈めん
高橋禮子『ガラスのクッキー』
ふんすいに初秋の陽ざし ドレミファソ…ラシドの上のまばゆき光
高野公彦『天平の水煙』
「鼠径部」と言つて彼女が笑ふときファララ八分音符のファララ
西田政史『ストロベリー・カレンダー』
【◯長調・◯短調など】
ショパンより後に生まれし仕合に嬰ハ短調作品64番
ルビ:仕合(しあはせ)
宮英子
変ロ長調の空いろ響くから春の喩えとして駆けのぼる
桐谷麻ゆき「かばん新人特集号」2015
石鹸がタイルを走りト短調40番に火のつくわたし
杉崎恒夫『パン屋のパンセ』
秋風の音符のわたしト短調が聴こえたら思いだしてください
杉﨑恒夫「かばん」2002・12
ニ短調の青空ひびく窓にして燦々と降る誰が涙かも
櫟原聰『光響』
生きのびよ と呼ぶ声聞こえニ短調噛みつぶしたるショスタコーヴィチ
佐藤弓生『眼鏡屋は夕ぐれのため』
輪がほそく広がる水面 遠いものがうねりかえってくる変ホ長調
井辻朱美『クラウド』
【そのほか】
イタリア読みのドレミだけでなく、和名のイロハ、ドイツ読みのツェーデーエー、そしてギターコードみたいな表記で音や和音を表すこともあります。
Cの絃切れて音せぬ洋琴に對き何を彈かんとするこころぞも
ルビ:C(ツエイ) 絃(げん) 洋琴(ピヤノ) 對(む) 彈(ひ) 荒栲(あらたへ)
筏井嘉一『荒栲』
ピザパイの中にときどきG♯7があり嚙みくだけない
コカコーラの自動販売機のまへでF♯mがふるへる
西田政史『ストロベリー・カレンダー』
十三夜 電線に月あらわれて嬰への音を示していたり
古野朋子「かばん新人特集号」1995
あかるくてさびしいA音 みずべには秋の蜻蛉がルーン文字置く
井辻朱美『クラウド』
キャロル忌のスカートゆるる、ゆふやけとゆふやみ分かつG線上に
吉田隼人『忘却のための試論』
春の夜の夢の浮き橋 A線の切れてはじけしヴァイオリンかな
杉﨑恒夫(「かばん」誌 年月不明)
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