本日の「闇鍋」に、蕾(つぼみ)を詠む短歌はざっと百首ほど。
(2020年3月17日現在、「闇鍋」の短歌は10万5千余。)
そこから本日の好みの歌を選びました。
■形状の見立てや比喩
「蕾」といえば〝ビフォーのエネルギー〟をためているものとして詠まれがち。
なので、まずは、あえてそういうのじゃない歌を拾ってみようと、
形状の見立てなどに力点のある歌を選んでみましたが、
多くは、形状に〝ビフォーのエネルギー〟を見出しているようです。
泡碧くかたまれる如兄弟らあひ寄れる如あぢさゐ蕾む
宮柊二『多く夜の歌』 ルビ:碧【あを】 如【ごと】
父は抱く坂のまひるにをりたたみ黒きつぼみとなる洋傘を
塚本邦雄『緑色研究』ルビ:洋傘【かうもり】
大空に背すじを伸ばしロケットのようなつぼみをつけるりんどう
俵万智『かぜのてのひら』シャンプーの香りに満ちる傘の中 つぼみとはもしやこのようなもの
早川志織 (出典調査中)
格納容器 罌粟の蕾にしまはれてゐるのは未知の花なり怖し
川野里子『硝子の島』
手を蕾ひらくかたちに踊らせてアフロのドロシー 手話なんですね
杉山モナミ 『かばん』2019年6月
街は迷うから好きだよ だけどまだ薔薇のつぼみのなかだったっけ
佐藤弓生『薄い街』
日本のいやはての北の小学校水蝋樹蕾みて夏休みらし
北原白秋『海阪』1949 ルビ:水蝋樹【いぼた】
※どこが「形状の見立てや比喩」か?
日本列島が枝で、その先端に水蝋樹の蕾があるような感じだからです。
枝毎に三また成せる三椏の蕾をみれば蜂の巣の如
長塚節 ルビ:三椏【みつまた】
■ビフォーのエネルギー
形状の見立てや比喩以外の表現で〝ビフォーのエネルギー〟を表したもの。
ヒヤシンスの蕾もつ鉢をゆすぶつてはやく春になれはや春になれ
前川佐美雄『植物祭』1930
きのうより今日おもむろにふくらめるさくらのつぼみ気色の悪し
阿木津英『白微光』
押しひらくちから蕾に秘められて万の桜はふるえつつ咲く
松平盟子『プラチナ・ブルース』
内功のみられたくなき色をしてつぼみの桜たち並びいる
安藤美保(出典調査中)
※内功は体内から生み出される気である内力を放出することをいうらしい。
点ける前の花火は蕾、たくさんのつぼみを提げて歩いたじゃん、道
千種創一『砂丘律』2015
君はまだつぼみのままでいるのだね殺虫剤と農薬だらけで
谷村ヤスカズ「早稲田短歌」44
日待つ夜のつぼみははるさめに冷たくふられ眠りに戻る
和歌DJうっちー『猿啼奥出雲集』
をとめが煮る牛乳の沸りの泡こまかゼラニュームはあかき蕾をほぐす
葛原妙子『橙黄』ルビ:牛乳(ちち) 沸(たぎ)
桃のつぼみひとつひとつを目で追ひておのおのに青い空を贈りつ
渡辺松男『雨(ふ)る』2016
★アフター
大きなる菖蒲のつぼみ花になりて萎みし花の上をおほひぬ
長塚節
※ビフォーじゃなくてアフター。こういう歌は珍しい。
以上
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