後ろからめくれば君に逢う前の世界へ戻ってゆく紙芝居
鈴木晴香
うしろより西日射せればあな寂し金色に光る漁師のあたま
ルビ:金色(こんじき)
北原白秋『雲母集』
後ろから修飾されてフランス語みたい 恋人、自由な、初夏の
柴田瞳「かばん」2011年6月いやだった あの逡巡がうしろからゆっくり頬を並べてきたの
杉山モナミ「かばん」2015年9月
後ろより誰か来て背にやはらかき掌を置くやうな春となりゐつ
稲葉京子『宴』
忍び男よりやさしげに背後より来るもの<死>ならば恍惚のうちに斬れ
斎藤史
後ろから君の耳ばかり見て歩くゐないのに大きな蛍の匂ひ
河野裕子『家』
昏睡の後ろからでいい 雨後の光を纏う馬にゆっくり跨る
江田浩司
三輪山の背後より不可思議の月立てりはじめに月と呼びしひとはや
山中智恵子『みずかありなむ』

今日は「うしろからどうとかこうとか」という歌を集めてみた。
上記はそこから、とりあえず本日の気分で選んだもの。
下の方にもあるので、お時間があればぜひご覧ください。
本日の短歌総データ数 108,938首
うち該当歌 92首
*検索テキストは、「背後から」「背後より」「後ろから」「後ろより」「うしろから」「うしろより」に限定し、その他の言い回しは拾わなかった。
*このシチュエーションが採用される頻度は0.08%で、けっこう人気があると思う。
さて、
短歌はどんな「うしろからすること」を詠んでいるだろう?
①触る 26首
うち「抱く」15首 「抱く」は同一の単語としては最多だった。
「抱く」以外の触る行為 11首
②なんらかの危害を加える 16首
「打つ」「刺す」など、なんらかの危害を加えることを詠む歌。
(危害の強さ、悪意の濃淡などには差がある。
「にらむ」「目を隠す」は軽度と判断し、ここに含めなかった。)
③移動(来る・行く等々) 16首
④音や声がする 12首
話かけられる、呼ばれるも含めた。
⑤見る(にらむ、覗く等も含む) 9首
⑥そのほかいろいろ 22首
(いくつか重複あり。 例:「うしろから来て抱く」は①と③に該当。)
もう少しピックアップ
背後より君を擁けば海原に葡萄の房のごとき雲見ゆ喜多昭夫『青夕焼』
「右肩が下がっている」と背後から思想を持たぬわたしに触れる
兵庫ユカ『七月の心臓』
うしろより「わ」とおどせしに、
先方のおどろかざりし、
ごとき寂しさ。
土岐善麿『黄昏に』
後ろから刺された僕のお腹からちょっと刃先が見えているなう
木下龍也『つむじ風、ここにあります』
こんな夜美術館の前に佇つてゐると背後より大山猫が来るぞ
永井陽子『モーツァルトの電話帳』
ストーヴにおしりを向けて猫はをりさいはひはつね背後より来る
小池光『思川の岸辺』
背後より来て目の前にすわりたるこの若者は沼科のケモノ
林和清『匿名の森』
ついに店の金に手をつけた夜うしろから声がしてぼくだよのび太くん
フラワーしげる『ビットとデシベル』
うしろよりにらむものありうしろよりわれらをにらむ青きものあり
宮沢賢治
背後から乗られて吐いた春の気の これが亀鳴く声なのかなあ
佐藤弓生『薄い街』
今日はこれでおしまい。
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