2020年6月22日月曜日

ミニ28 降らすもの


あまてらす神も心あるものならば物思ふ春は雨なふらせそ

和泉式部『和泉式部続集』

25で「降りかかる」を集めたが、今回は「降らす」を探してみた。
「降らす」(「振りかける」を含める)ことを読む歌は79首あった。
まずは本日の気分でピックアップ。

■本日のお気に入り


グレープフルーツ切断面に父さんは砂糖の雪を降らせています
穂村弘『水中翼船炎上中』2018

花降らす木犀の樹の下にいて来世は駅になれる気がする
服部真里子『行け広野へと』

どれほどの粉おしろいを降らせてはいずれ虚空に消えゆく顔か
佐藤弓生『薄い街』

すぐ怒る声よりさきに鈴虫の声のパウダーふりかけなさい
冬野虹『かしすまりあ』

体育館裏のなんでもない土の匂いが雨を降らせてしまう
千葉聡『飛び跳ねる教室』

鱗粉を脛に降らしめ何処へゆく水も光も通さぬ姉は
和里田幸男

公園の鉄の部分は昨晩の雨をゆっくり地面に降らす
木下龍也『つむじ風、ここにあります』


ここでちょっと説明を。
ピックアップの続きは下の方にあります。

■何を降らせる? 雨・雪・花


何を降らせるか調べたところ
 雪 19首
 雨 15首
 花  8首
この3つで半分以上を占めていた。
このほか複数あったのは、
 声 2首
 塩 2首
 砂糖2首
で、あとはすべて1首ずつだった。

■お気に入りの続き


約しある二人の刻を予ねて知りて天の粉雪降らしむるかな
ルビ:刻(とき)、予(か)、天(てん)、粉雪(こなゆき)
岡井隆

真白羽を空につらねてしんしんと雪降らしこよ天の鶴群
岡野弘彦 『天の鶴群』(あめのたづむら)

結露したコップの底が読みかけの文庫の上に降らす俄雨
伊波真人『ナイトフライト』

突然に雨を降らしぬ庭、家に あの迫力がすなわち母だ
永田紅『春の顕微鏡』

液晶に指すべらせてふるさとに雨を降らせる気象予報士
木下龍也『つむじ風、ここにあります』

背戸山の垂り枝のあしびほろほろと花降らしをり父は病むなり
岡野弘彦『石打てば石』

電話回線しきりに花を降らすゆゑねむれぬ真昼 鰐にならうか
山田富士郎『アビー・ロードを夢みて』

こんなにもわたしなんにもできなくて饂飩に一味をふりかけている
蒼井杏『瀬戸際レモン』

満月をすっかり閉ざしてしまうならどうか桃色のゾウを降らせて
瀬戸夏子『そのなかに心臓をつくって住みなさい』

木木の間に人を歩かせ歩かない木木は木の葉を降らしたりする
香川ヒサ『ヤマト・アライバル』

一瞬にして噴火したひとたちが灰を降らせている夜の町
笹井宏之『てんとろり』

待つという香辛料をふりかけてほうれん草のグラタンを焼く
俵万智『かぜのてのひら』

地球儀に影をふらせているひとを後ろから抱きたくて刺したい
田丸まひる『硝子のボレット』

晴れた夜の天気予報は退屈な月を地球に降らせるばかり
鈴木晴香『夜にあやまってくれ』

頭上の森ざわめき、やがて笑殺せよ笑殺せよと声降らすなり
佐佐木幸綱 『アニマ』

北国の青春が遠くやつて来て眠りの淵に雪を降らせる
田村元『北二十二条西七丁目』

老人は自転車で来て鳩たちにまぶしきパンの耳を降らせる
魚村晋太郎『銀耳』

エントリーシートに今朝の鉱山でとれた砂金をふりかけている
吉岡太朗『ひだりききの機械』

どんな小糠雨よりうつくしい朝のセロリーに振りかける塩
杉﨑恒夫『パン屋のパンセ』

ほんのりと火星が寄せてくる夕べちりめんじゃこをサラダに降らす
岩尾淳子『岸』

仲直りのサラダにきみがふりかける星のかけらのようなクルトン
谷川電話「かばん新人特集号」2015/3



ぷはー、おもしろい歌がいっぱいありましたね。



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