背後から追い立てる青空システム??
うしろよりにらむものありうしろよりわれらをにらむ青きものあり
宮沢賢治 歌稿(『宮沢賢治全集3』ちくま文庫)
■青空かな?
「青きもの」とは何だろう。何が「われら」を睨んでいるのか。
個別の人はさまざまなものに睨まれ得るが、「われら」という不特定の人、つまりすべての人を等しく睨むものみたいだ。これは、厳しい眼差しの背後霊みたいな「青空」かもしれない。
この歌にもし「青き」がなかったら、「われらをにらむ」ものは太陽だと解釈する人が多いだろう。
「お天道さまが見ている」という言い回しがあるからだ。その太陽は瞳であってその背後に「青」が控えているわけだ。
■背後から追い立てる―― 青空推進システム?
これは完全に私の深読みであり、宮沢賢治の意図とはかけ離れてしまうかもしれないのだが、この「青」が青空だとすれば、前後左右ぜんぶいっしょのはずの空の、後方からの睨みのまなざしにことさら言及したという点が重要だと思う。
前後がある、という捉え方は、
前方の未踏の未来の「青」へと、後方から追い立て続け、立ち止まることを許さない、
みたいな、「青空システム」とでもいうべきものを感じさせるからだ。
ばくぜんと空への畏怖を詠む歌はたくさんあるが、こういう畏怖を詠む歌は珍しい。
★オマケ 背後の青空
背後の青空を詠む歌を少し拾ってみた。
空は爽快感があって無敵の背景だが、脅威や畏怖が味付けや隠し味になっている。
空色を背景にして川べりにそら開きたくなるわなカフェを
谷じゃこ『ヒット・エンド・パレード』
無防備の背がかがむときふんわりと投げとばされる青空の暈
井辻朱美
掃除機をかけつつわれは背後なる冬青空へ吸はれんとせり
小島ゆかり 『ヘブライ暦』
崩れゆくビルの背後に秋晴れの青無地の空ひろがりてゐき
栗木京子『夏のうしろ』
永井陽子『ふしぎな楽器』
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