10円
本多忠義『禁忌色』2005
十円玉で用をすませてボックスを出るとき人間に戻ったやうな
佐藤通雅『連灯』2017
平成の十円玉が昭和より錆びていたりき ベタにさびしい
松木秀『RERA』2010
われよりも歳をとりたる十円を自販機に投ず がんばれ十円
松木秀『RERA』2010
かさばりて重き財布の十円を順に機械に放り入れたり
武富純一『鯨の祖先』2014
金魚鉢に金魚のゐない理髪店おまけにくれた十円硬貨
新井蜜『鹿に逢ふ』2014
新井蜜『鹿に逢ふ』2014
かの骨と十円玉を取り去ればそこは灰皿よりも灰皿
石井僚一 第57回短歌研究新人賞受賞作2014
ぴかぴかにみがいてしまえ十円玉 たかちゃんの部屋の退屈しのぎ
早坂類『風の吹く日にベランダにいる』1993
アルコールランプの炎に包まれて十円玉は銀色になる
入谷いずみ『海の人形』2005
Jちゃんと舐めし膝の血「十円玉?」「五円玉の味?」舌ひからせて
大野道夫『秋意』2015
大野道夫『秋意』2015
十円ハゲはいちど百円まであがりデフレにて十円にもどった
松木秀『RERA』2010
一人あたり十円ほどの予算にてわれが得意とすキャベツのいため煮
中城ふみ子 『乳房喪失』1954
自販機はなんとドクぺを買う人にお釣りを十円多く返せる
千石龍「外大短歌」7号2016
子どもらが十円の夢買いに来る駄菓子屋さんのラムネのみどり
俵万智『サラダ記念日』1987
おばあちゃんの寝言とまらぬ家じゅうで十円玉が薄目をあける
高柳蕗子『潮汐性母斑通信』2000
泣いてしまえば所詮は少女ものかげで赤い十円玉になるだけ
高柳蕗子『回文兄弟』1989
11円~49円
二十円引きのエクレア買ってきた君はひとくち無料でくれる
佐佐木定綱 『月を食う』2019
月に三十円もあれば、田舎にては、
楽に暮せると―
ひよつと思へる。
石川啄木『悲しき玩具』1912
子どもらはゴミを宝の山と呼ぶ一キロで三十円のビニール
俵万智『チョコレート革命』1997
事務所まで戻れば四十円安い愛のスコール駅で飲み干す
山川藍『いらっしゃい』2018
50円
五十円時給を上げる申請を手紙のように丁寧に書く
ユキノ進『冒険者たち』2018
51円~99円
残高六十八円 遠く薄く心の果てにあるお正月
北山あさひ 『崖にて』2020
消しゴムを八十円で新調す 時計のベルト変えて二学期
俵万智『サラダ記念日』1987
ギター店に八十三円足りないと言う少年を残して目覚める
佐藤涼子『Midnight Sun』2016
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