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まつぶさに眺めてかなし月こそは全き裸身と思ひいたりぬ
ルビ:全【また】
水原紫苑『びあんか』1989
いっしんに人形たちを裸にしそこから月の時間で遊ぶ
雪舟えま『たんぽるぽる』2011
門をくぐってきたのであろうきみもまた有明の月よりも裸で
佐藤弓生『モーヴ色のあめふる』2015
月の夜や裸形の女そらに舞ひ地に影せぬ静けさおもふ
若山牧水『海の声』1908
あかあかと十五夜の月隈なければ衣ぬぎすて水かぶるなり
北原白秋『雀の卵』1921
興味がありましたら以下本編を御覧ください。
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前回「致死量」をとりあげたときに、
月そのものに〝裸感〟があるんだなあ。
そういえば自分も詠んでいました。(うれしい)
月下で裸になる、裸が月光をあびる、という場面は現実にあり得ます。
が、「裸」は、実際に着衣ナシであることを表すとは限らないです。
例えば、つつみかくさぬ素直な気分を表す場合もあるでしょう。
裸であることで、心身が月と同化するような感覚にも通じます。
そのようなことから、詩歌表現としての需要を高まっていると思います。
前項でウドの「解脱」の歌を紹介したが、解脱というか、月下で服などを脱ぐことを詠む歌もときどきある。
致死量の月光兄の蒼全裸 藤原月彦
ルビ:蒼全裸(あおはだか)
『王権神授説』1975
致死量の月光兄の蒼全裸
ルビ:蒼全裸(あおはだか)
藤原月彦『王権神授説』1975
という句がありました。
「月」と「裸」という組み合わせは絵になるし、月光のきよらかさにかすかなエロティックな味わいがまじったような耽美性も感じられます。
ひとそれぞれのアレンジで力詠されていそうな題材だと思って、集めてみたところ、やっぱり! これはすごく読み応え、というか見ごたえがあります。
大別して、月そのものが裸である場合と、月下で人などが裸である場合があります。
まずは月そのものから。
■月が裸である歌
月そのものに〝裸感〟があるんだなあ。
まつぶさに眺めてかなし月こそは全き裸身と思ひいたりぬ
ルビ:全【また】
水原紫苑『びあんか』1989
月こそは全き裸身と言いし人ありて今宵の蝕甚あかし
久々湊盈子『世界黄昏』2017
わたくしを沈めてやがて浮き上がる月の裸身を薄目で見上げる
天道なお『NR』2013
月の夜や裸形の女そらに舞ひ地に影せぬ静けさおもふ
若山牧水『海の声』1908
「裸形の女」は月夜のふんいき、あるいは月光をあらわしているような感じ。
「裸形の女」は月夜のふんいき、あるいは月光をあらわしているような感じ。
忘られた兄よ 母を泣く黒服に混じって一人まっぱだかの月
高柳蕗子『潮汐性母斑通信』2000
■月下に裸の人などがいる歌
月下で裸になる、裸が月光をあびる、という場面は現実にあり得ます。
が、「裸」は、実際に着衣ナシであることを表すとは限らないです。
例えば、つつみかくさぬ素直な気分を表す場合もあるでしょう。
裸であることで、心身が月と同化するような感覚にも通じます。
そのようなことから、詩歌表現としての需要を高まっていると思います。
夏の夜の月をすずしみひとり居る裸に露の置く思ひあり
正岡子規(出典調査中)
ひと・くるま わずらいの無き夜歩きのはだか樹高し月青白し
坪野哲久『人間旦暮・春夏篇』1988
むなしきこと君のはだかを欲りて言い月は真珠のお皿だね
山下一路『あふりかへ』1976
ウイスキーは割らずに呷れ人は抱け月光は八月の裸身のために
ルビ:呷【あお】
佐佐木幸綱『呑牛』1998
清浄の容れものとして少年の裸体は立てり月のしたびに
岡部桂一郎 『一点鐘』2002
湯を浴ぶる少年ふたり月明に相似の裸身恥ぢにけらしも
松野志保『Too Young to Die』2007
いっしんに人形たちを裸にしそこから月の時間で遊ぶ
雪舟えま『たんぽるぽる』2011
月光とからまる冬の川波に赤裸の母が立ち上がりくる
江田浩司(出典調査中)
薄墨の流れやまぬを月の影 全裸の男舐め殺すかな
江田浩司(出典調査中)
裸木の梢に刺さりてゐる月を時間の竿がゆつくり外す
岡本光代(出典調査中)
裸とは書いてないけど、ウドの解脱って裸感があると思いませんか?
雪止みし厨は月の光となり解脱とげたる一束の独活
ルビ:光【かげ】・独活【うど】
富小路禎子『柘榴の宿』1983
■両方とも裸である歌
さっき「裸であることで月と同化するような感覚」と書きましたが、まさに、月と地上の人などの両方ともが裸であることを詠む歌もあります。
粘性の闇満ちてくる公園に月も真裸われも真裸
松村由利子 『大女伝説』2010
門をくぐってきたのであろうきみもまた有明の月よりも裸で
佐藤弓生『モーヴ色のあめふる』2015
何の門でしょうね。
何の門でしょうね。
ものみえず道ゆくことの ハダカデバネズミも月もほんとにはだか
佐藤弓生『モーヴ色のあめふる』2015
■月下で服などを脱ぐ歌
前項でウドの「解脱」の歌を紹介したが、解脱というか、月下で服などを脱ぐことを詠む歌もときどきある。
あかあかと十五夜の月隈なければ衣ぬぎすて水かぶるなり
北原白秋『雀の卵』1921
色のないクリスマスツリーやその群れがあらそって脱ぐ月の下かも
瀬戸夏子『かわいい海とかわいくない海 end,』2016
開かれて光ってしまう淡水魚それとも躰 月の脱衣所
鈴木晴香『夜にあやまってくれ』2016
俳句・川柳も少し見つけました
※俳句川柳、特に俳句は出典のわからない句が多いのですが、現代俳句協会のデータベースでも出典を記さずに提示しているので、調べないままにしています。俳句
致死量の月光兄の蒼全裸 藤原月彦
ルビ:蒼全裸(あおはだか)
『王権神授説』1975
一月や裸身に竹の匂ひして 和田耕三郎
博多人形裸になれず朧月 大石雄鬼
月影に裸身さらして無言なる 澤田和弥
裸木となり月光に手をつなぐ 花谷和子
裸馬をつなぎ廃墟の月に傷洗う 隈治人
裸馬をつなぎ廃墟の月に傷洗う 隈治人
川柳
白魚の裸身さらすや望の月 時実新子
水になるまで月に裸形を見せている 如月烏兎羽
「月刊おかじょうき」2009・1
「月刊おかじょうき」2009・1
月光に曝せば罪深い裸身 赤松ますみ
第24回川柳Z賞 2006・8
とりあえず今日はこんなところです。
第24回川柳Z賞 2006・8
とりあえず今日はこんなところです。
追記 狂歌 2021・4・23
Facebookで、ロビン・D・ギル(Robin D Gill)さんより以下の狂歌をご教示いただきました。英訳付きです。
(ほぼ原文のまま)
さて、これに勝つ短歌はあるだろうか。
是は/\お互い/\丸はだか見るに遠慮もなつの夜の月
夫丸『近世上方狂歌叢書』
Well, well! Here we are, naked on earth and up in the sky,
so, Summer Moon & friends keep on viewing, be not shy!
月と詠人のみか他の人も互いを見るか?&menもOKWell, well! To summer eyes, how cool we are both naked
so, Luna we need not be shy, let nature tonight be x-rated!
残念ながら原文の高品格に比べては上下も低俗なるがWell, well! Seeing both of us are naked, to summer eyes:
Luna, you and I tonight might as well self-advertise!
不可訳の「夏⇒無つ」を夏眼の語呂summarize=要略さて、これに勝つ短歌はあるだろうか。
これは、エロ合戦か、剣道か知らない。第二句は輝く意味?
涼むさえかゝわゆく照る月の影さし合い御免まる裸にて
斧丸『近世上方狂歌叢書』
又、無礼講(隠し芸を許す宴)あつかい!
身を横に臥し待ちの夜は無礼講と丸裸にて月も御出座
半月『近世上方狂歌叢書』
Lying on our sides as if in ambush this night to be lewd and rude,
when, sure enough, the Moon shows up also completely nude!
俳諧にも裸の月が珍しくないが、無礼講に寄せた上方狂歌は、1667年の「新撰犬筑波集」の「雲の衣を誰が剥ぐらむ いつよりも今宵の月は赤裸」の百倍も面白くなるぞ。
月だけが裸の狂歌が多い:
桂男よ這い星にや習いけん夜更けて外す雲の下帯
華産『近世上方狂歌叢書』
Hey, Man in the Moon, learn from the stars that rove for love,
and in the wee hours of the night slip off Luna’s undie-clouds!
雲の帯霞の衣いらばこそ裸百貫秋の桂男
米因『近世上方狂歌叢書』
(いらば=要らなければ?)
No need for fine robes woven of haze or sashes made of cloud,
Moon-man in Autumn is worth a hundred pounds buck-naked!
以上。
とのことでした。ロビンさんのコメント ここまで。
とのことでした。ロビンさんのコメント ここまで。
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