井辻朱美『クラウド』2014
かっこいい歌だなあ。
そも「重力」という語が歌に詠まれだしたのはいつだろう。
短歌というものは、詠みなれない言葉が定着するまで時間がかかる。
すでに抵抗なく短歌に使えるようになっているが、いつから使われ始めたのだろう。
ちょいっと検索。
本日の闇鍋短歌データ総数 121603首
うち、「重力」を詠む歌は56首
うち、「重力」を詠む歌は56首
多いので半分ぐらいに絞り込み、
歌集等の発行順に並べてみた。
(歌集発行年と雑誌等の初出に開きのある場合もあって、あまり参考にならないか。)
私のデータベースの中で「重力」を詠んだもっとも古い例はこれ。
うわあ、鴎外さんじゃないですか!! さすがです。
うわあ、鴎外さんじゃないですか!! さすがです。
わが足はかくこそ立てれ重力のあらむかぎりを私しつつ
ルビ:重力【ぢうりよく】 私【わたくし】
森鴎外 「明星」1907年10月
ルビ:重力【ぢうりよく】 私【わたくし】
森鴎外 「明星」1907年10月
以下、発行年が飛んでいるのは、私のデータに偏りがあり、昭和の歌データがやや少なめであるせいもあると思うが、実際「重力」という語を使う人が少なかったと思う。
真っ直ぐにひばりをつちに引きもどす春の重力はなんGですか
杉崎恒夫「かばん」1993・4
蒼穹に重力あるを登攀のまつ逆さまに落ちゆくこころ
本多稜『蒼の重力』1998
オレンジを投げれば甘い重力に街は吸われて夕焼け小焼け
植松大雄『鳥のない鳥籠』2000
五階より見下ろし居れば重力の底をしなやかに黒猫あゆむ
高野公彦『水苑』2000
道ばたにかがみて重力測りおれば目の高さにて花々揺れる
森尻理恵『グリーンフラッシュ』2002
惑星別重力一覧眺めつつ「このごろあなたのゆめばかりみる」
穂村弘『ラインマーカーズ』2003
踏み締める一歩一歩よこの僕に何はなくとも重力はある
松木秀『5メートルほどの果てしなさ』2005
かりそめの重力われにやどりつつエレベーターに運ばれてゆく
都築直子『青層圏』2006
重力に憑かれておればくらぐらとあたまを抱いてあげるべきひと
佐藤弓生『薄い街』2010
重力があるゆゑきまる裏表 雲のおもてに吾は出でたり
ルビ:出【い】
光森裕樹『鈴を産むひばり』2010
みんなして重力受けた真昼間の授業参観日をおもいだす
笹井宏之 『ひとさらい』2011
重力は山のぼるとき意識せり靴の踵に黒牛がゐる
渡辺松男 『蝶』2011
座るとき立ち上がるとき歩くとき_ありがとう足そして重力
東直子 短歌日記『十階』2011
昇降機にたっぷりの幽霊、ひだり手に花という海のわたしの重力
瀬戸夏子『そのなかに心臓をつくって住みなさい』2012
重力に負けワイシャツの落ちるとき羽ばたいている生活の鳥
生沼義朗『関係について』2012
重力に今はしづみて睡りゐむニール船長月あかき夜も
大塚寅彦「詩客」 2013-02-08
光森裕樹『鈴を産むひばり』2010
みんなして重力受けた真昼間の授業参観日をおもいだす
笹井宏之 『ひとさらい』2011
重力は山のぼるとき意識せり靴の踵に黒牛がゐる
渡辺松男 『蝶』2011
座るとき立ち上がるとき歩くとき_ありがとう足そして重力
東直子 短歌日記『十階』2011
昇降機にたっぷりの幽霊、ひだり手に花という海のわたしの重力
瀬戸夏子『そのなかに心臓をつくって住みなさい』2012
重力に負けワイシャツの落ちるとき羽ばたいている生活の鳥
生沼義朗『関係について』2012
重力に今はしづみて睡りゐむニール船長月あかき夜も
大塚寅彦「詩客」 2013-02-08
※ニール・アームストロング。アメリカの宇宙飛行士。二度の宇宙飛行で機長。
(1966年ジェミニ8号:有人宇宙船初のドッキング、1969年アポロ11号;初の月面に降り立っての探索)
重力がひるんだ隙に人々は一部地域を除いて空へ
木下龍也 『つむじ風、ここにあります』2013
重力のせいで佇むぼくたちの花火がきえて夜がひろがる
藤本玲未『オーロラのお針子』2014
舞うものは重力を掌ににぎるかな鉄腕アトムの汲みたての瞳
井辻朱美『クラウド』2014
吐くものがもうない君の吐く唾にかかってゆく透明な重力
千種創一『砂丘律』2015
ドロップの意味をもつものかぎりなく重力的な飴の話に
間宮きりん「早稲田短歌」44号 2015.2
重力に逆らってゆくものはみなロケットである。ロケット妹。
谷じゃこ『ヒット・エンド・パレード』2016
夏の夜のすべての重力受けとめて金魚すくいのポイが破れる
伊波真人『ナイトフライト』2017
赤ちゃんは生まれてこない 月面の低重力のスケートリンク
三上春海「詩客」2018-07-07
井辻朱美『クラウド』2014
吐くものがもうない君の吐く唾にかかってゆく透明な重力
千種創一『砂丘律』2015
ドロップの意味をもつものかぎりなく重力的な飴の話に
間宮きりん「早稲田短歌」44号 2015.2
重力に逆らってゆくものはみなロケットである。ロケット妹。
谷じゃこ『ヒット・エンド・パレード』2016
夏の夜のすべての重力受けとめて金魚すくいのポイが破れる
伊波真人『ナイトフライト』2017
赤ちゃんは生まれてこない 月面の低重力のスケートリンク
三上春海「詩客」2018-07-07
凌霄花ひと花ごとの重力に抗いながら咲く夏至の日
ルビ:凌霄花【のうぜんか】 咲【ひら】
小島なお『展開図』2020
重力を体感する、受け入れる、あるいは反発を詠む、というスタンスが、なんとなく定番であるようだ。
それを何らかの一工夫で仕上げる。
それぞれ「いい歌」ではあるが、その良さがどんぐりの背比べみたいに感じられる。
冒頭に置いた歌は、その時点ではただなんとなく「かっこいい!」と感じただけだったが、「重力」の歌を集めて読み比べてみると、ちょっと真似できないような抜きん出ているところがあると思う。
2022・4・10
0 件のコメント:
コメントを投稿