■標語 夕暮れの一番星は反射材 20220・8・14
古くから詩歌に使われている言葉は、いわばいろいろな味を引き出す調理法のレシピがいっぱいある。使われてこなかった言葉にはそれがないから使いにくい。詩歌の言葉ではないという違和感が強い人もいる。
解決法のひとつに「両者を組み合わて使う」というのがある。
これは役所で目にしたポスターで、いかにも奥ゆかしく目立たないように貼ってあった。
夕暮れの
一番星は
反射材
全日本交通安全協会・毎日新聞社・警察庁
事故にあいにくくなるよう「反射材」使用を奨励する標語である。
詩歌表現が目的ではない。
だが、さっき言った「両者を組み合わて使う」の効果的な例であって、抒情的説得力は標語としての効力を高めていると思うし、詩歌表現としてもけっこうすぐれていないだろうか。
「反射材」が夕暮れの地上の星だというのはすごく風流なとらえかただし、しかもこの星たちは動き回るから、ホタルみたいな美しい光景が目に浮かぶ。
星のレシピ 〝地上の星〟
「夕暮れ」「星」は、詩歌に読みこなされて、メインのおかずにもなるし、他の食材を引き立たせることもできる万能食材のような詩材だ。
「反射板」という詩的に無愛想な単語も、これらとセットであれば、違和感は薄く、新鮮で印象的な表現になる。
そして「星」という語のレシピで、
「地上の光るものの比喩になったり呼応したりする」
というものがある。
新しいところでは、「地上の星」という歌もあるように、地上で輝くものや、転じて地上の人の業績の比喩になっているが、この〝地上の星〟というレシピ、実はうんと古くからある。
紀貫之の伝説「ありとほし」
紀貫之が旅の途中、馬上のまま蟻通神社の前を通り過ぎようとしたら急にあたりが曇って雨になり、乗っていた馬が病気になって倒れてしまった。
そのあたりに「蟻通し」という神様がいると聞いて貫之は歌を詠んだ。
かきくもりあやめも知らぬ大空にありとほしをば思ふべしやは
曇り空に星があるとわからないように、このあたりにありとほし様のお社があると気づけませんでした、という感じで非礼をわびているが、「蟻通し」を「蟻・と・星」に読み替えてそれとなく蟻を星に重ねてイメージアップしているのもちょっとプラス効果だ。
視覚的にも、地上に蟻が点々と散らばるさまを反転して夜空の星にしているような感じで、よくできていると思う。
双方向性
ところで、〝地上の星〟というレシピには、地上からは見えない、というニュアンスが加わることもある。
空の星は見上げれば見えるが、地上の星は同じ地上からは見つけにくい。
だから空から見守っていてくれるといい、という願いがこもる場合がある。
その思考は、空の星を見上げることで間接的に地上の星を思うことでもある。
こういう双方向性も星のレシピのひとつだと思う。
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