「ミニアンソロジー」というほどの歌数はなく、
「レア鍋賞」ほど少なくもない……、
そんな、ちょっとした短歌コレクションです。
(以前は「随時更新」として、いくつかまとめていましたが、
いま、1テーマ1ページの方式に移行しています。)
いま、1テーマ1ページの方式に移行しています。)
2年ぐらい前に書いたものですが、内容を全面的に整理して再公開します。2024・7・29
1 言葉の見間違い
言葉のまちがいで、AをBと読み間違える、というような歌をあつめます。
さらさらをさよならと読みまちがうを春愁という 眩しき液晶
ルビ:眩【まぶ】
神﨑ハルミ(出典調査中)
人間臭いを人間魚雷と聞きまちがえて島の漁師が戦争をする
山下一路『スーパーアメフラシ』2017
解説を解脱と読みて気がつかず頁に広がる文字の大河よ
いかがでしょう?
連休が遺体に見える 連休は天気保ちそう沖縄以外
斉藤斎藤 角川短歌H24/1自選作品
さらさらをさよならと読みまちがうを春愁という 眩しき液晶
ルビ:眩【まぶ】
神﨑ハルミ(出典調査中)
人間臭いを人間魚雷と聞きまちがえて島の漁師が戦争をする
山下一路『スーパーアメフラシ』2017
エンジェルを止めてくださいエンジンの見間違いだった地下駐車場
戸田響子『煮汁』2019
シートベルトをシューベルトと読み違い透きとおりたり冬の錯誤も
内山晶太『窓、その他』2012
青の字をまたまちがへて春になるそれを塗りつぶせず二重線
山階基 (風にあたる拾遺2012-2015)
古漬が古墳にみえるくらいには疲労していた 皺皺のレシート
吉野リリカ 「かばん」2024年7月号
解説を解脱と読みて気がつかず頁に広がる文字の大河よ
武富純一『鯨の祖先』2014
蕪と無が似てゐることのかなしみももろとも煮えてゆく冬の音
荻原裕幸『リリカル・アンドロイド』
草かんむりを載せてこの世をわたりゆく母が苺となる夏の朝
荻原裕幸『永遠よりも少し短い日常』2022
■事象の見間違い
言葉だけでなく、何かを何かとまちがえる、「AとBを間違う」「AがBに見える」という歌もおもしろそうで、探したらけっこうあった。間違いとは違うが「AがBに見えてくる」も拾った。
くしゃくしゃの紙を広げて雪山の立体地図と見間違えたい
ながや宏高2015/3「かばん新人特集号」
水滴が小さな魚に見えてくる雨の匂いにしずまる真昼
東直子『青卵』
皮を剥がれた兎がリボンに見えるまでナチ将校のダンスを思う
江田浩司(出典調査中)
オカリナの音がなければ全力で爪を噛んでるやうに見えた、と
光森裕樹『うづまき管だより』
ひとりひとりがさびしい熊に見えてくるあの頃は愉しい敵だつたのに
岡井隆『テロリズム以後の感想/草の雨』
丸めたるタオルが怪物に見えてくる怖くなったら風呂を出なさい
杉崎恒夫『パン屋のパンセ』
三日月がバナナの房に見えるほど乱視であった過去の日本は
中沢直人『極圏の光』
待ちあはせしたる子が裸子植物に見えてくるなりグリーンの服
寺島博子『白を着る』2008
はやく家に帰ろう街の電柱がみんなアルデンテに見えてくる
虫武一俊『羽虫群』
あなたには正装した子供に見えるサボテンが点々と門まで
我妻俊樹 本人のブログ「喜劇 眼の前旅館」2010-03-21
齧り終へし林檎の芯がエンタシスの柱の象に見えてくるとき
高木佳子『玄牝』
印画紙を滑り落ちてく酢酸が涙に見える暗室は海
柴田瞳 詩客2021年02月06日
コスモスの揺れの間に間に見えてゐし日本手拭があなたであつた
永田和宏「短歌往来」H23/7
事物や文字の外見が似ていて見間違えること。
それがどうして、こんなにも、何か詩的な意味を感じさせるのか。
このことは、たぶん、「なぜだじゃれはなぜおもしろいのか」ということに繋がるのでしょう。
だじゃれは、別々の意味の言葉が偶然に同音であるということ。
だから、別々のものの外見が偶然似ていることは視覚のだじゃれです。
だじゃれは、言葉にしろ視覚にしろ、単なる面白さ以上の何か、感覚的かつ知的・神秘的な刺激を含んでいると思います。
2024・7・29
2024・8・10追記
虐待のギャクはヨだっけEだっけ二文字目なんで「待つ」なんだっけ
山田航『寂しさでしか殺せない最強のうさぎ』
ピアノとシューベルトの相性くらい赤ペンと青ペンを間違えたくらい
瀬戸夏子『かわいい海とかわいくない海 end,』2016
新緑のゴールドラッシュに沸く森で撃たれよ鹿とまちがえられて
穂村弘『シンジケート』1990
ぽっぽっぽ豆と皇潤を間違えて撒けば元気な駅前広場
谷じゃこ『ヒット・エンド・パレード』2016
秋深し「自殺す暗い人」といふ空耳はああ、ジーザス・クライスト
ルビ:空耳【そらみみ】
大塚寅彦『夢何有郷』
ルビ:空耳【そらみみ】
大塚寅彦『夢何有郷』
さもしいとしるしたはずがさみしいとよみちがえられなぐさめられて
久保芳美『金襴緞子』
久保芳美『金襴緞子』
ギララアとおもはず読みておどろきぬ昭和十三年の「アララギ」
窪田薫(出典調査中)
窪田薫(出典調査中)
「モキチキ」とするとコンビニで売っている物のような気のする茂吉の忌
松木秀『親切な郷愁』
松木秀『親切な郷愁』
俳句
ひとみごくうの瞳のうごく花野かな
田島健一『鶴』(電子書籍)2011
田島健一『鶴』(電子書籍)2011
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