「ミニアンソロジー」というほどの歌数はなく、
「レア鍋賞」ほど少なくもない……、
そんな、ちょっとした短歌コレクションです。
(以前は「随時更新」として、いくつかまとめていましたが、
いま、1テーマ1ページの方式に移行しています。)
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2024年4月18日 ~のまにまに(随に)
「波のまにまに漂う」などと使われる「まにまに」は、
死語ではないが、文語っぽくて、普段着のコトバとしては気取った感じになる。
そういえば、百人一首に
このたびはぬさもとりあへず手向山 もみぢのにしき神のまにまに
菅原道真
というのがあったっけ。
この歌の「まにまに」には、「神のご意思のままに」という意味に加えて、多くの紅葉が揺れるの擬態語のような効果もあるようだ。
こういう有名な用例もあることだし、短歌の言葉の領域なら、文語っぽさはもとよりあまり気にならない。さりげなく上品なこの響きは、歌人ならほっとかない魅力があると思う。
(あらやだ、私ったらまだ使ったことがない!)
myデータベースで検索してみたら、128672首のなかの32首に使われている。
これはまあまあ多いと思う。
(ちなみに俳句は1句、川柳はナシだった。俳句川柳は短歌より総収録数が少ないとはいえこの差は大きい。)
(ちなみに俳句は1句、川柳はナシだった。俳句川柳は短歌より総収録数が少ないとはいえこの差は大きい。)
「まにまに」の意味や用例
もし試験で「まにまに」を使った例文を作りなさいという問題が出たら、
「流されたボールが波のまにまに漂う」
と書くだろう。
ネット検索してみると、「波のまにまに」「風のまにまに」は歌詞にしばしば使われているようだ。なるほど、風まかせ波まかせという気分は歌になりそう。
●デジタル大辞泉
1 他人の意志や事態の成り行きに任せて行動するさま。ままに。まにま。
2 ある事柄が、他の事柄の進行とともに行われるさま。…につれて。…とともに。
●学研全訳古語辞典
①…に任せて。…のままに。▽他の人の意志や、物事の成り行きに従っての意。
②…とともに。▽物事が進むにつれての意。
なるほど。私の解釈はほぼこんな感じではあったが、ちょっと足りないとも思った。
の辞書の説明をはみだす用例もあると思いませんか。
●見え隠れするような感じ。
●見え隠れするような感じ。
つまり「間に間に」のような感じで使っていることがあると思う。
本来の意味にないとしても、そういう使い方をする理由はわかる。
例えば、「ボールが波のまにまに漂う」には、波まかせという意味に加えて、擬態語的な効果もある。波の意のままにゆらゆら漂う感じや、波の間に見え隠れするかのような視覚効果が。
例えば、「ボールが波のまにまに漂う」には、波まかせという意味に加えて、擬態語的な効果もある。波の意のままにゆらゆら漂う感じや、波の間に見え隠れするかのような視覚効果が。
だから、軸足をこの視覚効果のほうに移して用いるケースがあっても違和感は少ない。
いろんなもののまにまに?
では、私のデータベースのなかにあった「まにまに」短歌は、何のまにまにを詠んでいるだろう。
カウントしてみた。
1 10首 風
2 4首 霧(靄含む)
3 3首 生(命含む)/波(潮含む)
4 2首 揺れ
5 1首 雲/指示/皺/負け/成り/まばたき/群れ/医師/君/鳥
「風」が圧倒的に多かったが、珍しいもののまにまにもあった。
内容を見ると、「風」のような順当なものもちょっとひねりが効いていたりして、おもしろかった。
以下、少しピックアップしておく。
鳥のため樹は立つことを選びしと野はわれに告ぐ風のまにまに
大塚寅彦 『ガウディの月』2003
大塚寅彦 『ガウディの月』2003
右岸左岸ひとしく今日を捨てていく風のまにまに 元気をだして
北山あさひ 「詩客」2013年9月27日
北山あさひ 「詩客」2013年9月27日
そよろそよろと風のまにまにゆれやまぬ池の辺三本小杉の穂先
加藤克巳『游魂』
加藤克巳『游魂』
村道の靄のまにまにかたむいて杭はかがやく乗物を待つ
佐藤弓生『世界が海におおわれるまで』 (現代短歌クラシックス04)
霧のまにまに釣り人みえしぬまべりに霧晴れたれば釣り人をらず
渡辺松男 『時間の神の蝸牛』2023
佐藤弓生『世界が海におおわれるまで』 (現代短歌クラシックス04)
霧のまにまに釣り人みえしぬまべりに霧晴れたれば釣り人をらず
渡辺松男 『時間の神の蝸牛』2023
うつせみの生のまにまにおとろへし歯を抜きしかば吾はさびしゑ
斎藤茂吉『ともしび』
斎藤茂吉『ともしび』
海月らが波のまにまに愛し合う氷菓窓辺でくずれる夕べ
天道なお『NR』2013
天道なお『NR』2013
この大地震避くるすべなしひれ伏して揺りのまにまにまかせてぞ居る
北原白秋『風隠集』1944
山川の成りのまにまに険しきを踏み通りつつ狭霧に濡れぬ
北原白秋『風隠集』1944
つひに還らず空の神兵、銀蝿を連れておほきみの負けのまにまに
塚本邦雄「短歌研究」平成8年11月
塚本邦雄「短歌研究」平成8年11月
まばたきのまにまにこの身に冬の陽の黄なる光の入り溜まるかも
稲葉京子(出典調査中)
稲葉京子(出典調査中)
ルビ:険(こご)
斎藤茂吉『あらたま』
斎藤茂吉『あらたま』
飼猫をとぢこめしかどいつしかや葬のまにまに猫の居りけり
森岡貞香 『百乳文』
冬山の寺の木ぬれになつめの實はつかに殘り鳥のまにまに
森岡貞香 『百乳文』
冬山の寺の木ぬれになつめの實はつかに殘り鳥のまにまに
ルビ:冬山(ふゆやま) 木(こ)
斎藤茂吉 『連山』
気づけばアバの♪マニマニマニー(ABBA:Money Money Money)を鼻歌で歌ってた。
2024・6・4
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