2024年8月4日日曜日

ちょびコレ29 戦争と空・青


「ちょびコレ」とは、
「ミニアンソロジー」というほどの歌数はなく、

「レア鍋賞」ほど少なくもない……、
そんな、ちょっとした短歌コレクションです。
(以前は「随時更新」として、いくつかまとめていましたが、
いま、1テーマ1ページの方式に移行しています。)


■戦争と空・青


かの夏の空の青きを言ひ継ぎしのみに果てたるらしも「戦後」は
成瀬有『流されスワン』1982


私は戦後生まれですが、言われてみれば確かに、戦争を詠む歌で青空をよく見かける気がします。

戦争に限らず言葉に尽くせないような悲惨な出来事があると、それでも何事もなく澄んだ空の真っ青というものを言葉にする、という心理が働くのでしょうか。
また、追悼歌に空が詠み込まれる傾向もあります。こちらは、死者を清い空へと見送りたいからなのかもしれません。多くの人命の失われた戦争を詠むとき、この心理も関わって来るでしょう。

テキスト検索で探せる範囲ですが、少し探してみたところ、「戦+空」だけでなく「戦+青」の歌がけっこうあるようでした。

ただし、「空」も「青」も、何にでも使える万能の人気語。何にでもくっつくから、戦争との組み合わせも多くてあたりまえ。
ですから、多いだけでなく、ここになぜ「空」が(「青」が)必要かという必然性を検証しなくちゃいけないかなあ、と思いつつ、いやいやいや、それはちょっと荷が重いから、とりあえず、いくつか目についたものを拾いあげておくだけにします。

大きなる鏡には蒼穹全体をうつして鏡の奥に特攻 渡辺松男
ルビ:蒼穹【そら】
短歌ムック「ねむらない樹」2022・8

敗戦日 空また晴れて日晒しの青姦のやうな日本も見ゆ
ルビ:青姦【あをかん】
日高堯子 『睡蓮記』2008

なにごともなかった空に無数の風船そして戦争は終わったの?
吉田竜宇「率」2号

戦争を知る人はみな老人の 空がこんなにうすい夏です
東直子「短歌往来」201409

人も猿も戦い疲れ死ににけり無音の空に昼の月泛く
ルビ:泛【う】
谷岡亜紀『ひどいどしゃぶり』

青きミルク卓にこぼれて妹が反戦をいう不可思議な朝
大野道夫『秋階段』1995

2024,8,4

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