(狂歌の掛詞には当時の人々にとって常識だった伝説や知識が盛り込まれており、なかなか読み解ききれません。汗)
以下、グリーンの文字はGill さんのコメント、ピンクの文字は高柳の補足などです。
--水は〝見ず〟にも人のカガミになるか。
顔の垢おとす朝けの手水鉢 水の皮むく薄氷かな
宗古堂河書『狂歌大観』
This morning, in order to wash off the crud on my face
I first had to clear away a thin ice skin on the basin.
Waking, I wash all that crud off my face just to be nice;
but, first, I must strip the basin of its thin skin of ice.
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--和泉式部が晩年に隠居した誠心院、俗名「和泉式部寺」にあった「式部の井」を汲んでみて。(鈴木棠三著『狂歌鑑賞辞典』はうんと詳しい)
夜ごとに式部がそゝや洗ふらし結ぶ泉の水の臭さは
雄長老『狂歌大観』
Night after night, Shikibu her soso washes; my, how stinky
The Spring water she cups between her thumb and pinky!
ーー夢に出た熊野権現の歌徳級の答え※で一件落着かと思われるが、残念ながら1589年成立の雄長老百の夏の歌中に上記も出た。
※「夢に出た熊野権現の歌徳級の答え」とは
『古今著聞集(ここんちょもんじゅう)』に覚讃という山伏が官職が上がらないのを憂えて、熊野十二所権現のひとつである若王子に歌を奉った話がある。
山川のあさりにならでよどみなば流れもやらぬものや思はん
(山川が浅瀬にならずに淀んでしまうなら、流れも滞るように、私も阿闍梨になれずくよくよしてしまいます。) あさり=浅瀬のこと×阿闍梨=僧の官位
すると夢で若王子がこのように返事。
あさりにはしばしよどむぞ山川のながれもやらぬものな思ひそ
(阿闍梨にはしばらくなれないが、山川の流れがとまるように思い煩うな。
なお、覚讃は後に出世できた。* * * *
寄衣祝
君が代は天の羽衣とき洗い打つとも減らぬ巌ならまし
真顔『江戸狂歌本選集』
--劫の巌に羽根を振れる飛ぶ早乙女でなく、洗濯になるがまさしく狂たる。
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寄滝恋
うきことを聞ては耳を洗いけり枕に流すたきつ泪に
未得
Hearing sad things has a way of washing out nosey ears,
for down my pillow flows this gushing cataract of tears!
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言う事を聞かぬ耳をも洗えがし泪は滝と落ちるものとて
青柳立門『江戸狂歌本選集』
Even ears that don’t eavesdrop may still need cleaning,
as my teary cataracts fall for not hearing anything.
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忘られぬ香のつく袖をきぬ/\の涙に洗い流す苦しさ
紀寛『江戸狂歌本選集』
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早茎を漬ける時分か重石を洗いあげ屋も抱へて置(く?)屋も
岸水『近世上方狂歌叢書』
頂を洗い流して振り乱す黒髪山の五月雨の頃
瀬田長橋『江戸狂歌本選集』
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寄米神祇
お供えハきよく清めし洗いヨネ万の神たちきこしめせと申す
舎鳫 『近世上方狂歌叢書』
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耳
唐人はなにゆえ水で洗いけんさらても耳はつめたきものを
渓雲 『近世上方狂歌叢書』
星合も見えぬ斗の黒雲は天の川にも硯洗ふ歟
一好『狂歌大観』
--狂歌餅月夜 中の大勢の願乞となる短冊の数々を思えば「筆の嵐」英語でいえばwriting up a stormは、確実。
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硯石あらう折から雨雲の墨を流すなほし合の空 春窓亭梅風 新鮮百
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いにしへを恋て硯も洗ふほど涙かきやるふみ月の空 飯盛 『江戸狂歌本選集』
鐘部
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湯ともなる物とてきけばほん脳(まま)の汚れを洗ふ暁の鐘 橘洲『江戸狂歌本選集』
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糠星も見えぬ今宵の天の川水で洗ふか光る月影 凹『江戸狂歌本選集』
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万劫亀の背中をば 沖の波こそ洗ふらめ いかなる塵の積もりゐて 蓬莱山と高からん
That Kalpa Turtle – is the mire on its back not washed by the ocean?
For it to grow as high as Mount Merhu, now, that’s an odd notion!
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松
末の山波やこし湯をさすならん松のふぐりを洗う気色は
木端『近世上方狂歌叢書』
--泉岳寺 義士四十七人の石塔 28首より
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首洗う井戸を覗けば影映る世の武士のかゝみなるらん
呉竜軒愛成『江戸狂歌本選集』
--紅葉の血汐もあると思えば…
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何所に泊まりて
洗足の盥にうつる富士の山かきまわしたる田子の浦波
無為楽『近世上方狂歌叢書』
--落ちが解らない。盥の中に洗う足の裏しかない、芦の浦のない所?
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滴ほども呑み込まぬのは砕き寄る耳をも滝に洗う心か
本末『近世上方狂歌叢書』
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