2020年2月19日水曜日

ミニ4 ドレミの歌

ドレミなどの音名を詠み込んだ短歌を集めてみた。
こういうことを詠む作者は限られていて、やや偏りがあります。
もたまたま見つけた俳句や川柳も含めました

【ド】
錯乱のドの音からの駆けくらべ
樋口由紀子『容顔』(川柳)
(短歌ではドの音単独で詠み込む歌が見つかりませんでした。)

【レ】
レの音のうちやまぬなり五ページで消えてしまった狐のこども
東直子  『十階』

きみをおもちゃにしてるだなんてねーまさか楽器にしてるレの音を出す
吉岡太朗「短歌研究」2011年5月号

【ミ】
ひとの不幸をむしろたのしむミイの音の鳴らぬハモニカ海辺に吹きて
寺山修司 『血と麦』

【ファ】
海流にかすかにまざるファの音の、音を吸っては膨らむ船の、
千種創一『砂丘律』

ファの音とファよりちょっぴりずれた音で不協和音を鳴らす踏切
松木秀『RERA』

【ソ】
(ソの音単独で詠み込む歌句は見つかりませんでした。)

【ラ】他の音よりやや人気? 数がありました。
フラジオレットで叫ぶ子の身も不安も死も全てラの音に収斂された
中島裕介『Starving Stargazer』

葬送の曲の中からラの音をララ……口ずさむ歳下の叔父
江田浩司

きょうはラの音でくしゃみをしたいから「ドレミふぁんくしょんドロップ」は青
枡野浩一

落日の駱駝ねぎらう磊落な裸神の歌がラ音の濫觴
高柳蕗子『あたしごっこ』

ただ ラの音を パンと弾く だんだら縞の鳥が飛ぶ
高柳篤子『高柳篤子作品集』(俳句)

ラの音が錆びてしまったハーモニカ
丸山進『アルバトロス』

【シ】
しゅろの木のシの音さらさらかき鳴らし天高くゆく地球の風は
井辻朱美『クラウド』

【2音以上含む】
ゴミ置き場でビンを叩いて音階をつくるドレミファそらに新月
千葉聡(たぶん「かばん」誌 年月不明)

快楽の音のドとシが咲くアリア草がしとどの遠退くライカ
雨谷忠彦(たぶん「かばん」誌 年月不明)

熱帯の雨季など知らぬ眸をしてうたうドレミのファが高かりき
石井浩「かばん」新人特集号2010

水を吸い水の匂いをまとうまでドレミファソっとことば沈めん
高橋禮子『ガラスのクッキー』

ふんすいに初秋の陽ざし ドレミファソ…ラシドの上のまばゆき光
高野公彦『天平の水煙』

「鼠径部」と言つて彼女が笑ふときファララ八分音符のファララ
西田政史『ストロベリー・カレンダー』

【◯長調・◯短調など】
ショパンより後に生まれし仕合に嬰ハ短調作品64番
ルビ:仕合(しあはせ)
宮英子

変ロ長調の空いろ響くから春の喩えとして駆けのぼる
桐谷麻ゆき「かばん新人特集号」2015

石鹸がタイルを走りト短調40番に火のつくわたし
杉崎恒夫『パン屋のパンセ』

秋風の音符のわたしト短調が聴こえたら思いだしてください
杉﨑恒夫「かばん」2002・12

ニ短調の青空ひびく窓にして燦々と降る誰が涙かも
櫟原聰『光響』

生きのびよ と呼ぶ声聞こえニ短調噛みつぶしたるショスタコーヴィチ
佐藤弓生『眼鏡屋は夕ぐれのため』

輪がほそく広がる水面 遠いものがうねりかえってくる変ホ長調
井辻朱美『クラウド』


【そのほか】
イタリア読みのドレミだけでなく、和名のイロハ、ドイツ読みのツェーデーエー、そしてギターコードみたいな表記で音や和音を表すこともあります。

Cの絃切れて音せぬ洋琴に對き何を彈かんとするこころぞも
ルビ:C(ツエイ)  絃(げん)  洋琴(ピヤノ)  對(む)  彈(ひ)   荒栲(あらたへ)
筏井嘉一『荒栲』

ピザパイの中にときどきG♯7があり嚙みくだけない
コカコーラの自動販売機のまへでF♯mがふるへる
西田政史『ストロベリー・カレンダー』

十三夜 電線に月あらわれて嬰への音を示していたり
古野朋子「かばん新人特集号」1995

あかるくてさびしいA音 みずべには秋の蜻蛉がルーン文字置く
井辻朱美『クラウド』

キャロル忌のスカートゆるる、ゆふやけとゆふやみ分かつG線上に
吉田隼人『忘却のための試論』

春の夜の夢の浮き橋 A線の切れてはじけしヴァイオリンかな
杉﨑恒夫(「かばん」誌 年月不明)

ミニ2 痒い

北風を縦割りにして開きつつあちこち痒い子を連れ園へ
東直子

幻影肢ばかりのこころがかゆくなる翼はドードー触角はかげろふ
井辻朱美『水晶散歩』

風を生むものみな翼と呼ぶべきかたてがみかゆい獅子の棲む空
井辻朱美『クラウド』2014

接続のパルスの音はしんとして指のつけねが少しかゆい日
富田睦子

むづかゆく薄らつめたくやや痛きあてこすりをば聞く快さ
岡本かの子『かろきねたみ』1912

父兄との押し問答をするうちにへその辺りがかゆくなりたる
 江田浩司

大空に描くほどつらい蝶の足かゆいところに手が届きすぎる 
三好のぶ子「かばん」1998新人特集号v2

遠き世の噂話が届きしか三月耳がしきりに痒し 
三枝昻之 『甲州百目』

幾筋も汗流れをりわれにまだ棄つるべきものある歯痒さよ 
田村元『北二十二条西七丁目』2012

公園の夜のトイレはきれいだな 歩きつつコンタクトかゆくなる 
永井祐『日本の中でたのしく暮らす』2012

寝かせても不味いカレーと意識した途端に痒くなる虫刺され
 柴田瞳

カサカサのひざ下かゆし猫じゃらし茂る空き地にボールを追えば 
あまねそう『2月31日の空』

べらばうに命が痒い咲きかけの泰山朴がゆれてゐるあのあたり 
川野里子『太陽の壷』2003

むかしわが伴侶たりしゆえ陸橋の背をはねて行く痒きリヤカー 
岡井隆『朝狩』1964

金いろの蛇らが立ちて泳ぎ来るを眼のふち痒くなるまで見をり 
河野裕子 『家』2000

体中かゆくてかゆくてかきむしる「かゆくない」が思い出せない 
ふらみらり「かばん新人特集号」2015

西ひくく光乱れている雲よ左太腿のあたりが痒し
ルビ:太腿 【ふともも】
 阿木津英『天の鴉片』1983   

藤のはなぶさかたちよけれど かゆいところにはとどかざりけり 
髙瀬一誌『火ダルマ』2002

読み聞かせ、駆けつけ警固、江戸しぐさ、痒いところが余計痒くて
 勺禰子『月に射されたままのからだで』2017

輪郭の溶けゆく貌に驚いて首都の末梢神経が痒い
ルビ:貌【かお】
 菊池裕『アンダーグラウンド』2004

目の裏がかゆくなりたりとおもひしとき突発的にわれ眠りたり
小池光『時のめぐりに』

夏祭り湿疹かゆし八月の真紅の真ん丸 何もなかった
和合亮一 作者note 2015・10・27

アンコールし続けている手の平がかゆくてかゆくて出てこい早く
相原かろ『浜竹』

神様はなんでかゆいを作ったの 恋がかゆい、とかよりいいけど
ナイス害 サイト「うたの日」より

体質が変わったのだろうおととしの自分の比喩が痒い夕暮れ
兵庫ユカ『七月の心臓』

びっしりと芽吹く夜空のむず痒さわたくしにまだ母がいるから
佐伯裕子『感傷生活』

たまに痒くなるためだけの乳首などふたつ灯せりちいさき冬に
内山晶太 「詩客」2012-12-07


■2021年6月23日追記

俳句


籾かゆし大和をとめは帯を解く
阿波野青畝


水虫がほのかに痒しレヴユ見る
富安風生


痒そうに野川流るる麦の秋
清崎敏郎


藁塚が見えて目のふち痒きかな
山川蝉夫『山川蝉夫句集秋』


夏の星同心円状に痒し
石原ユキオ 作者web「石原ユキオ商店」


葱坊主ぜんゐんあたまかゆきかな
渡辺松男『隕石』


春一番しっぽはないがかゆくなる
久真八志「かばん」201306


情死ありまた雁瘡の痒きころ
藤原月彦『藤原月彦全句集』2019「


川柳


右手が痒い犬のように噛むか
高須唖三味


トーストが静かに焦げてゆく痒み
畑美樹


痒いのと痛いのどちらとりますか
丸山進


進化中というのはかゆいものですね
ひとり静



都々逸

入れておくれよかゆくてならぬ 私ひとりが蚊帳の外

ミニ1 白壁

白壁に映るステンドグラスみておそろしい信仰のはじまり
加藤治郎『昏睡のパラダイス』1998

学校の白壁に熱き冬日かも弁当前の授業闌けつゝ 
ルビ:弁当【べんたう】 闌【た】
木下利玄(大正5年発表/ 歌集名? )

白壁にしがみつく蜘蛛そうここは入口でなく出口でもない 
 江戸雪『DOOR』2005

夕焼のにじむ白壁に声絶えてほろびうせたるものの爪あと
ルビ:爪(つめ)
 前川佐美雄『捜神』1964

いつ死にてもよけれど今はいやなれば白壁につるす赤唐辛子 
渡辺松男『自転車の籠の豚』2010

白壁に噴水のうすき影動きたしかなりひとりひとりの生は   
横山未来子『花の線画』2007

ぷすぷすと燃えだすごとき白壁に鳥を探して入つていつた 
笠井烏子『ゴブリンシャークの背に跨りて』(私家版)

白壁に我が影うつす午後二時のあの日とおなじ太陽の位置 
新井蜜『鹿に逢ふ』2014

白壁にたばこの灰で字を書こう思いつかないこすりつけよう 
永井祐『日本の中でたのしく暮らす』2012


■2021年4月29日追加

蔦の葉のすきまにのぞく白壁のやうにしばらく眠つてゐたい
梅内美華子『真珠層』

青空は罪深きかよ
虻あぶや蜻蛉
お倉の白壁にぶつかつて死ぬ
夢野久作『猟奇歌』

■2021年6月23日追加

俳句

ざぶざぶと白壁洗ふわか葉哉
小林一茶

今日も生きて虫なきしみる倉の白壁
尾崎放哉

白壁に蜂つきあたりつつ入日
桂信子

白壁に蛾が当然のやうにゐる
矢口晃

白壁の穴より薔薇の國を覗く
渡邊白泉


川柳

陽があるゆえの白壁の誇りのみなり
中村冨二『千句集』

ミニ3  母かもしれない

「母かもしれない」を含む歌、たまに見る気がして検索してみました。
約10万4500首中以下5首だけでした。

「母かもしれない」で題詠をやったらいい歌が収穫できそう。

さむきわが射程のなかにさだまりし屋根の雀は母かもしれぬ 
寺山修司『空には本』

岸辺には犬が待ちをり雌犬なり乳房に斑あり母かもしれぬ 
日高堯子『雲の塔』

草原を全力でかけてゆく人のいる四月あれは母かもしれず 
小島なお『サリンジャーは死んでしまった』

ほの光る空気中浮遊細菌は母かもよああ数かぎりなし 
渡辺松男『泡宇宙の蛙』1999

この夕べ抱えてかえる温かいパンはわたしの母かもしれない 
杉崎恒夫『パン屋のパンセ』
(「崎」の字は正しくは「﨑」ですが、検索からもれないよう「崎」を使いました。)

ミニアンソロジーについて

●ミニアンソロジーは、以前「潮汐性母斑通信」のコンテンツとしてアップしていたものです。
 更新しやすさを考えて、こちらに移動しました。

●私のデータベース「闇鍋」は現在10万5000弱のデータがあります。

 気まぐれに単語検索をしてみて、検索結果からその日の好みでサッと選んで掲載しています。
 時間があればコメントをつけるつもりですが、あまり実現していません。


●歌の掲載順に意味はなく、ほぼデータベースで見つけた順です。

●後日、更に歌を見つけて追加することがあります。

●出典の歌集などはできる限りつけています。※
 アップ時点でわからなくても、調べがつけばあとから追記します。


※データベース「闇鍋」は、いろいろな方法でデータを集めていて、統計的に役立てるためにとにかく数をあつめるべく、歌集等からの入力だけでなく、ネットからコピペすることもあります。
点検や出典確認はあとから行うのですが、なかなか追いつきません。


●データベース「闇鍋」を使ったアンソロジーは、こちらにもあります。
 

2019年10月28日月曜日

富士の見立て(14) 富士には頂きがあるが欲には限りがない

人の欲喩えんかたは無かりけり富士の山にも頂きぞある 松永貞徳 T1672

What can we compare to human greed
when even Mount Fuji has a peak!

F:あら、これは道歌みたい。

G:たしかに狂歌して道歌したかという感じですが、一応初期狂歌集に出た。

F:ほえ? あ、「道歌したか」って洒落ですね。(笑)
 あの富士でさえ頂きがあるのに、人の欲は限りがないから例えるものがないという、これも見立てですね。

狂歌には塵がつもれば山になるほど不尽だから不二の題すき   敬愚

F:ん? 敬愚っていう狂歌師、いましたっけ?

G:敬愚は我が号なり。

F:えっ、えぇぇー!  おお、字数ほぼ合ってるぅ。

G:ほぼじゃないぜ。

F:わ、すみません。かんぺき。(汗)しかも「題すき」は「大好き」を掛けてるし。

その形(なり)ハ鼻てふよりも大空の手に引っぱられつつあるティッシュ  敬愚

F:むむ、これが富士の見立て狂歌なら、「富士は地球の鼻みたい、というよりも、箱から持ち上がるティッシュだ」っていうふうに見立てたんですね!

G:大地という箱から、富士が引っぱり取られる途中。スポンと抜けたら、栓が抜けたみたいに地球がすっ飛んで消える。ぱらぱら絵本にしてみたい!

(富士の見立てシリーズ 終)

富士の見立て(13) 富士詣り 夢で済ますか酒で済ますか

不尽の山夢に見るこそ果報なれ路銀もいらず草臥(くたびれ)もせず 鯛屋貞柳 T1734

Seeing Mt Fuji in a dream, your good luck is already here:
no tolls or tired legs..…beats going there to start the year!

G:見立てではないが、貞柳の名歌。
 富士詣りも富士の狂歌と川柳の定番のひとつで、富士登山で煩悩を清められるなどの信仰があった。
 でも実行するのはしんどい。山を来させる(モハメッドすらできなかった事)を夢で実行した方がよっぽど利己。

蓬莱の山で楽しき君が代やふしの薬に風は引くとも 茂喬 K1811

G:一方、この茂喬が祝う蓬莱は、古代中国で東の海にあると言われた仙境で、日本では富士が蓬莱とされることもあった。
 そして「ふしの薬」といえば、酒か。

F:きっと酒の銘柄に「蓬莱」とか「富士」とかがあったんでしょう。
 富士詣りは千代八千代の長寿を願うもので、風邪の薬として飲む酒は名前だけでも富士詣り。不老不死のご利益がありそう、っていう歌かな。
(続く)