札・硬貨
金額なしで硬貨や札束を詠んでいる歌がたくさんあります。
ピックアップしました。
硬貨・コイン
天に投げ上げし硬貨のうらおもて男はなべて死のわしづかみ
山田富士郎(出典調査中)
硬貨舞うバスの床みて不可思議なちからが目覚めそうな感じに
雪舟えま『たんぽるぽる』2011
相容れぬ哀しみあればくり返し入れても出てくる硬貨が光る
楠誓英『青昏抄』2014
花まつり人から人へ渡されるアルミニウムの硬貨のひかり
嵯峨直樹『半地下』2014
数枚の硬貨を切符に換えにゆくまだ町は冷水魚の気配
千種創一『砂丘律』2015
群青を愛するあまりはつなつの硬貨おとしてしまった 運河に
井上法子『永遠でないほうの火』2016
お財布を持たない主義の鯖なのでエラに硬貨を忍ばせている
谷じゃこ『ヒット・エンド・パレード』2016
銀の硬貨でむらさきの水購えり生殖ののちは逃げるのだろう
野口あや子『眠れる海』2017
レシートへ硬貨を乗せる 客の掌にわれの冷たき掌がふれぬよう
沼尻つた子『ウォータープルーフ』2016
卓上にきづく硬貨のピラミッド空虚は弱きものをまづ統ぶ
西田政史『ストロベリー・カレンダー』1993
往きに見て復りにもまだ落ちているアルミ硬貨を雨中に拾う
ルビ:復【かえ】
久々湊盈子『世界黄昏』2017
手のひらで舟をかたどりエヴィアンのお釣りのつめたい硬貨をもらう
服部真里子『遠くの敵や硝子を』
いっときの関係として雨の日に硬貨を渡し傘をいただく
虫武一俊『羽虫群』
がま口の口にあらざるところから口開いてきて硬貨は洩れる
生沼義朗『空間』2019
百円硬貨落とせば道に花は咲く きれいな気持ちで死んでいきたい
阿波野巧也『ビギナーズラック』2020
地下道に硬貨の落つる音のして行き交ふ人の目の光り合ふ
高野岬『海に鳴る骨』2018
転がっていった硬貨は暗闇でいまごろ倒れていることでしょう
谷川電話(出典調査中)
桜花みつつ咲かせて銀色のコイン吸はるる夜の自販機に
近藤かすみ(出典調査中)
最終版タブロイド紙を買うためにコインを探る指のさびしさ
藤原龍一郎『日々の泡・泡の日々』
なにゆえか財布の中が銀色の穴のあいてるコインばっかり
宇都宮敦 朝日新聞夕刊2011年5月24日
昭和製のコイン入れれば震へ出す真夏を回りつくすさざなみ
山田航『水に沈む羊』2016
死はつねにぴかぴかであれ花季のコイン洗車を霊柩車出づ
ルビ:花季【はなどき】
大塚寅彦『夢何有郷』2011
カラコロと返却口へ落ちてゆくコインの気持ちをつかみかけてた
鈴木美紀子『風のアンダースタディ』2017
うらがわのかなしみなんて知る由もないコインでも月でもないし
岡野大嗣『サイレンと犀』2014
札・紙幣
国境を僕らは越える鳩胸のダッチワイフに札束詰めて
穂村弘『ドライ ドライ アイス』1992
夕暮れのギターケースに投げ入れるあしたこわれる国の札束
木下龍也『きみを嫌いな奴はクズだよ』2016
札束でしあわせになるひとびとを睫毛あたりで肯定してる
笹井宏之『てんとろり』2011
銀行の清き少女の繊き手の無尽にくり出す春の札束
加藤克巳『エスプリの花』1953
脱亜入米いまなら言ふか万札の諭吉翁(をう)その表情読めず
大塚寅彦「詩客」2013-02-08
忘れたのかもしれないねやわらいでうすくひろがる紙幣をみれば
柳谷あゆみ『ダマスカスへ行く 前・後・途中』2012
皴のばし送られし紙幣夜となればマシン油しみし母の手匂う
岸上大作『意思表示』1961
しわくちゃの紙幣みたいに生きている 最初からやり直してください
宇野なずき『最初からやり直してください』2018
くらきところ立ち止まり指にたしかむる紙幣といえるうつくしき紙を
内山晶太「詩客」2017-04-08
世の中はからくりばかりいくつもの数字に触れて手にする紙幣
三井ゆき『池にある石』2018
犬の国にも色街はあり皺くちやの紙幣に犬の横顔刷られ
石川美南『架空線』2018
EUの紙幣に描かるEUのどの国にもなき窓と門、橋
香川ヒサ『MODE』2003
風と雲、貨幣と言葉と石塁と 神と人との出会ひしところ
香川ヒサ(出典調査中) 2021・3・8追加
月を見る平次の腰にくろがねの〈交換価値〉の束はゆれたり
中山明『猫1・2・3・4』 2021・3・8追加
みづからの意志ならなくに札の顔となりし漱石日本に満つ
高野公彦『天泣』1996 2021・4・25追加